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オリジのオリンポスから、セツナ、アイリーン、サラム、キュレイア。
セツナの好物がヒヨコ豆に決定しました。ごちそうの振る舞い甲斐がないやつだ(笑

これを書いてて思いだしたけど、私、前にもセツナに向かって「臆病者」って言う小説を書いた気がする。やっぱセツナは臆病なんだな。


+++


 神山から見える空は、いつも青い。
 それもそのはずで、文字通り天に近い場所にあるここでは、雲の方が下方にあるのだ。
 季節によっては昇ってきた雲が霧のように神山を覆うが、それも稀なことである。
 気持ちよく透きとおった青い空の下で四人の『神憑き』がピクニックめいたことをしていた。
 といっても、セツナを主とする宮の敷地で、地面の上に敷布を敷き、昼食をとっているだけなのだが。
「たまには地べたに座って食べるのもいいわねえ。あっ、リーン、それとって!」
「これ? キューア、相変わらず好きなのね」
 楽しそうに笑う二人をなんとはなしに眺めながら、アイリーンがさらに取り分けている料理に目をとめる。
 確かにキュレイアの昔からの好物だということを確認して、セツナは内心で首を傾げた。
 二人は――いや、サラムもあわせて、三人はいったいいつ知り合ったというのだろう。
 幼い時分に神山から出たことなど、ほとんどなかったはずなのに。
 アイリーンに出会ってから何度も浮かび上がった疑問を、彼はまた静かに沈め直す。
 すぐに疑問が浮かぶくせに、この件についてはあまり考えが続かない。不思議なことに、尋ねることをしようとも思わないのだ。
 もくもくと口に料理を運ぶ。
 サラムとキュレイアがしきりに「うめー!」「おいしい!」と騒ぐのを、にこにこと見ていたアイリーンが、ふとセツナを見た。
「セツナ、どう?」
 彼が口にしていたのは、ただの塩ゆでにしたヒヨコ豆だ。
 とはいえ、塩がほどよく利いていて絶妙な甘みがうまいと思いながら食べていたセツナは、素直に一言「うまい」と言った。
「よかった」
 ふわり、と笑うアイリーンになにか抗いがたい引力を感じて、セツナは目を逸らした。
 そのまま、またもくもくと豆を消費する。
「相変わらず好きよねえ」
 と、呆れたように言うキュレイアに、ほっとけ、と言おうとしたが。
「まったくなあ、リーンがせっかく凝ったもん用意してくれたんだから、他のも食べろよ」
 と、呆れたように言うサラムの言葉に、はたと手の動きを止めた。
「……あんたが作ったのか」
 今更! とキューアが喚くが、帰ってきたら自宮がピクニック状態になってることに脱力していたセツナに、そこまで気を回せというのも無茶だろう。
 とはいえ、気づかなかったことに後ろめたさを感じたことも本当だ。
 微妙に眉をひそめたセツナに気づいたのか、アイリーンは気分を害した様子もなく「気にしないで」と笑う。
「みんなの好きなものを集めたんだから、好きなものを食べて」
 ふわふわと笑うアイリーンを前に、セツナは開きかけた口を閉じる。そうして、またもくもくと食事を再開した。



「イカロス、って、いたよな」
 腹が満たされて、ぼんやりと眠気を感じてきた頃に、サラムが唐突に言った。
 半分落ちかけていた目蓋を上げて友人の顔を見ると、彼は手で目元に影を作りながら太陽を見ている。
 その仕種で、神話の登場人物についての話だと察した。
「なんだ、突然」
「お前、どう思う? 神話のとおりの愚か者か」
 問われて、少し考える。サラムが意図のよくわからない話を振ってきた時は、遠回しに何かを伝えたい時だと知っているから、適当にあしらうことはしなかった。
「迷宮を脱する知恵があったんだから、馬鹿ではない。太陽の熱が蝋を溶かす可能性を考えつかなかったのかどうかはわからないが、ダイダロスの忠告を聞かなかった当たり、愚かなんだろうな」
「死んだから愚かってことか」
「そりゃ、せっかく助かったのに、むざむざ死ぬような真似をするのはおかしいだろう?」
「共感は?」
「どこにするんだ」
 ふうん、と鼻を鳴らすサラムに、なんなんだと視線で訴える。
 サラムの向こう側、太陽の方向には、アイリーンとキュレイアが何やら話をしながらハーブ摘みにいそしんでいる。
「お前が言ってんのは結果論だ。イカロスだって死にたくて太陽に近づいたんじゃないだろ」
「些細な好奇心があだになって、命を落とすなんて珍しくもなんともない」
「危険を考慮できないくらいに、近づきたいと焦がれたんだ。些細な好奇心なんかじゃないだろうが」
 ほれ、とサラムは振り返らないまま太陽を手で示す。
 その動きにつられて視線を動かしたセツナがとらえたのは、金茶の髪をふわふわと揺らして笑うアイリーンだ。
「イカロスは、太陽に近づきすぎて落ちて死んだ。セツナ、お前がイカロスだったら、太陽に近づくリスクを避けて生きのびるんだろうな。愚かなイカロスにならないかわりに、臆病者になったわけだ」
 臆病者と言われ、ムッとする。それならお前はどうするんだとセツナが問えば、サラムはにやりと笑った。
「俺? 俺はもちろんうまくやるさ。蝋が溶けないぎりぎりの位置で、太陽のぬくみの恩恵を受けるね」
 呵々と笑うサラムにため息をつく。心地よい微睡みはどこかへ行ってしまった。
「……結局、なんの話だったんだ」
「ただの神話の話だろ」
 嘘をつけ。
 毒づこうと顔を上げたタイミングで、遠くのアイリーンと視線があう。
 きょとんとした彼女がそのままセツナに笑いかけるのを受け、なぜこんなに眩しいのだろう、と目を閉じた。
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