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伯爵と妖精、オリジナルなど。コメント等ありましたらお気軽にどうぞv 対象年齢はなんとなく中学生以上となっております(´v`*)
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オリジナルの「オリンポス宮」から、少年エクト、少年リュオ、ちびサラム。少年たちは15歳くらい。
こうやって外堀から攻めていけば、いつか本筋を書く気になるんじゃないかって夢見てます^q^

今回女の子がいない!

追記:
絵を描いてみたら、リュオがサラムをいじめてるみたいになりました(´ワ`)


+++



 産まれた子が『神憑き』であるか否か、それは産まれた瞬間に判別がつく。
 『神憑き』は印を持って産まれてくる。文字通り、手に『持って』産まれてくるのだ。そしてその印は、上位階に行けば行くほど煌めく輝石の形を為している。
 エクトは真っ青な半月の珠を両手にひとつずつ持っていた。リュオは内側に無数の煌めきを宿した朱色の珠を持って産まれたらしい。
 海を司る『ポセイドン』憑きのエクトは青、太陽の化身とされる『アポロン』憑きのリュオは朱と、憑き神に関連する珠を持って産まれるのが常だった。
 そうして、『神憑き』だと判じられた赤ん坊は、親の顔も覚えぬうちに神殿に奉じられ、神山へと連れて行かれる。
 あまねく世界、あまねく人々に大いなる力を発揮する『神憑き』は、ただ人の内にあっては災厄にしかならないからだ。
「とはいえ、まあ、親にしたら可愛い自分の子どもを手放したくないよなあ……」
「同情するな、エクト」
 辺境の村。
 大陸の中央にあり、世界のどの場所からでも姿を認めることのできる神山が霞むほど遠くの地に、エクトとリュオは来ていた。
 祭壇の周りにしか屋根のない、簡素な造りの神殿。神がおわすとされる祭壇の上方に立つふたりの見下ろす先には、薄汚れた子どもと、身なりのいい大人が数人、地に額をこすりつけんばかりに平伏している。
「感情に流され、誤った判断をした末路がこれだ。どこに同情の余地がある」
 子どもは奴隷の身なりをしていた。縄につけられて連れてこられたところを、先ほど一喝して解かせたばかりだ。
 むき出しになった細い手足に、無数の痣が見える。エクトは痛ましげにそれを見つめて、うん、と頷いた。
「この子のことを考えれば、それはそうだ。――長、その子どもを引き取りに来た」
「本来は神山に住まい、広い世界にて力をふるうべき子どもだ。このような小さな村で収まるものではない」
 子どもが『神憑き』であると知らなかったらしい長は、目を剥いて奴隷として扱ってきた子どもを見た。
 色をなくして「応」と答えることしかできない長に対し、否やを唱えたのはこの場で一番派手な格好をしている男だった。
「アポロンさま、ポセイドンさま、お待ちください。この者には印がありません。見た目も中身も小汚いただの小僧です。なにかのお間違いではありませんか?」
 伺うように、けれど侮りを隠しもしない顔を向けてくる男に対し、エクトは眉をひそめた。
 辺境に行けば行くほど、『神』の住み処から遠ざかる。それに比例して信仰心が減じるのは致し方ないことかもしれない。
 『神』を信じない輩にとっては、リュオもエクトも、少し小綺麗な格好をした少年にしか見えないだろう。光り輝いているわけでもないし、宙に浮くわけでもない。
 俗世にすっかり身を浸からせている人間は、見たままを信じ、見えない部分の力を過小評価する。実際に力に触れたことがないのならある程度は仕方ないのかもしれないけれど、この男はすでに見ているはずだ。
「『ヘルメス』」
 エクトの呼びかけに、子どもの肩がぴくりと動き、ゆるゆると顔が上がる。
 薄汚れ、やせ細った顔にある二つの輝きは、理知の光を宿している。彼は自分を『神憑き』だと理解しているのだ。
「今、何歳になる?」
「……9歳、です」
 だって、とリュオを見ると、彼は白金の髪を揺らして肩を竦めた。
「9年。9年もこの子どもに接していて、なにも気づかなかったとは、さぞかし頭が鈍いんだろうな」
 嘲弄する親友に、エクトは生ぬるく笑みを漏らす。リュオの怜悧な美貌は、悪人面をする時にもっとも輝いているような気がする。
 倍以上も年の離れた子どもから見下された男は、ぐっと口をかみ、眦を釣り上げた。
 その口から罵声が飛び出す前に、リュオがたたみかける。
「見れば、この寂れた村の中で、お前だけ妙に血色のいい顔をしているな。それが誰のもたらした加護か、この村の惨状がどこに由来するものか、わかっていてしらばっくれているのではないか」
「なにを馬鹿な……!」
「『神憑き』の力を軽んじるお前には、今後罰が下るだろう。『ヘルメス』を拘束し、私欲に利用した罪は重い」
「くだらん! このクソガキめ、黙って聞いていれば……」
「黙るのは貴様だ、馬鹿者が!」
 長と男が険悪な雰囲気になるのを、エクトは「あーあ」と眺めやる。
 ふと視線を移すと、子どもが青の双眸をじっとこちらに向けていた。
 にこりと笑い、手を伸ばす。
「おいで。なにか忘れ物はないかい?」
 子どもは、エクトの手のひらを見つめ、迷うような緩慢な素振りで立ち上がった。
 男が気づいて止めようとするが、ひとつ呻いただけで動きを止めてしまう。
「欲にまみれた汚らしい手で、これ以上その子に触れるな」
 いつもは柔らかい親友の声が、今は険を帯びてひどく尖っている。
 祭壇を通り越し、ただ人よりも高い位置に落ち着いた子どもを眺め、怒りたく気持ちはよくわかると、エクトも眉をしかめた。
 やせっぽちの身体からは、饐えた臭いがする。背も小さく、とても9歳には見えない。
「――これはお笑いだ!」
 うるさいな、と目をやる先で、動きを止められた男が口元をいびつに歪めて吼えている。
「なんで口まで黙らせないんだ」
「うるさい、加減が難しいんだ。殺すわけにはいかないだろう」
 ひそひそとやり合う傍から、大音声が通り抜けていく。
「仮にもアポロン、ポセイドンを名乗る者が、印がない子どもを『神憑き』と紛うとは! その子どもは枯れ果てた村の最後の希望だ! 神は些細な気まぐれで、この村を死に絶やすのだな!」
「……希望?」
 エクトが繋いだ手の先から、ピリ、と痺れが伝わってきた。
 口を開こうとしていたリュオを制して、子どもの動向を見守る。
 子どもの顔は笑っていたけれど、明らかに怒気を纏っていた。
「俺を災厄と呼んだじゃないですか、ご主人様。村をお前から守るために、一歩も外に出てはいけないと。ねえ、あれは何の話だったんですか?」
 へらへらと笑う顔は、まるで道化の仮面をつけているようだ。
 ピリピリと腕が痺れる。押さえ込まれ、けれど抑えきれない激情が、放電のように子どもを取り巻いている。
「貴様、それはまことのことか!」
「長、あの子どもには印がない。それはあなたもご存じのはずだ!」
 輝石を抱いて産まれなかったということか。いや、そうというよりは。
「親が隠したのかな……」
「だろうな。まったく、度し難い」
 見下ろした先の子どもに、親がどうなったのかとは聞けない。両親がまっとうに生きているのならば、奴隷の身分になどは落ちなかっただろう。
「ま、いいや。とにかくもう行こう。俺たちが長居するのもあまりいいことじゃない」
 ぽん、と子どもの痩せた肩を叩き、行こうと促す。子どもは頷き、けれどすぐに「忘れ物」と呟いた。
「ご主人様」
 薄汚い、ちっぽけな子どもは、けれどただ人のある場所から上方において、かつて自分を使役していた人間を見下ろしている。
 睨みつけてくる男の顔に、へらり、と笑いかける。
「あなたに相応の『幸福』が、この先あなたに訪れますように」
 うわあ、とエクトは思わず口の中で呻く。リュオも驚いたような顔をして子どもを見ている。
 道化のように、馬鹿みたいな顔で笑うこの子どもは「相応の幸福」がどういうものか正確に理解しているようだった。

 

 虹の橋を辿れば神山まではあっという間だ。住み慣れた場所に戻ってきたことでほっとして、エクトはうーんと伸びをした。
「あー肩凝った。着替えていいかな。マント重い」
「馬鹿。まだ仕事は終わってないんだから、そのくらい我慢しろ」
「着替えてからでいいじゃん」
「我慢しろ」
 はーい、とやる気のない返事をして、ぽつんと留まっている子どもを振り返る。
「慌ただしくしちゃってごめんな。俺は『ポセイドン』のエクトだ。ようこそ神山に」
「挨拶が遅れてすまなかったね。私は『アポロン』のリュオ。きみの名前は?」
 二人して屈み込むと、子どもは若干身を仰け反らせた。怯えたような目をして、しかしそれをすぐにへらりとした笑顔で消した。
「サラム……あの、俺」
「ん?」
「……神様には生まれつき、印があるって。でも、俺、そんなもの」
 道化の笑顔がしおれるように俯いていく。顔を見合わせたエクトとリュオが口を開こうとすると、子どもは慌てたように遮った。
「でも! でも、変な力があるのは本当だから、下働きとかでいいから、俺、こんなんだけど働けるから、」
「サラム」
 リュオの声が、いつもの柔らかさを取り戻している。
「印は、ただの目印だ。きみはわかっているはずだ。自分が『ヘルメス』であることを」
「あればわかりやすいけど、なくても本物は本物だよ。俺たちの目は節穴じゃない。お前は本物だ。大丈夫だよ」
 涙が浮かびかけた目を何度か瞬かせて、子どもは――サラムは、またへらりと笑った。
「……『ヘルメス』は、下から数えてどのくらいなの? 俺、誰に従えばいい?」
 そのへりくだった様に、リュオがそっと眉をひそめる。エクトはサラムを安心させる笑顔のまま、気にくわないへらへら笑顔をつまみ上げた。
 目をぱちくりさせるサラムに、いいか、とエクトは言い含める。
「『ヘルメス』は、頂点に立つ十二神のうちの、一柱だ」
 青い瞳が零れんばかりに大きくなる。
 痩せこけていても柔らかなほっぺをつまみ上げるのをやめ、今度はそれをぐいぐいと押し潰す。
「あと、『ヘルメス』は智の神だ。お前が相当に頭がいいのはなんとなくわかってるんだから、もうわざと馬鹿な振りはしなくていいんだぞ」
 わかったか? と言って手を離す。サラムはしばらく、呆然としていた。
「……俺が、思ってること言うと、みんな嫌な顔するんだ。殴られたり、食事抜かれたり……」
「ここでは逆だぞ、サラム。言いたいこと隠してへらへらしてたら、ほっぺ潰しの刑に処す!」
 言いながら、泣きそうになっている子どもの頭をかき回す。
 そうしているうちに、子どもらしい笑い声が聞こえてきた。
「なんだよそれ……もう、もういいから、わかったから!」
 道化のような笑みではない、自然な笑顔を見れたことに安心する。
 ほっとして親友の方を見ると、彼も似たような顔をして笑っていた。

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