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伯爵と妖精、オリジナルなど。コメント等ありましたらお気軽にどうぞv 対象年齢はなんとなく中学生以上となっております(´v`*)
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※「恋よりもおだやかに~」ネタバレ含みます。

モニターを引き受けてくださったまるさんからのリクエスト「公爵エドガーの思春期満喫話」です!^^*
片想いから始めればいいよ、という感じにわしゃわしゃ書いてみました。舞台を朝にしたので、あだるとちっくにはなりませんでした。残念><
ティーンズラブみたいな感じのエドリディを楽しんでいただければ嬉しいですvまるさん、どうもありがとうございました!


+++



 朝、夢からうつつへと戻りゆくさなかに、決まって思い描く色彩がある。
 五月の若葉のような、煌めくペリドットのような、光を存分に吸収し、振りまいているような鮮やかな色。
 実際に目蓋を開けて見る景色はなんとも味気ない。
 なんともいえない寂寥感を味わいながら、だからこそエドガーは、一刻も早く彼女に逢いたいと思うのだ。

 

「きみと顔を合わせるまでに、こんなに時間がかかるのはおかしいと思うんだ」
 朝の挨拶をすませた開口一番、朝食の席でそんなことを言うと、リディアは可愛らしくきょとんとする。
「あたし、寝坊しちゃったかしら?」
「いや、そんなことないよ。大方の乗客はまだ寝てるだろうし」
「じゃあ何の話?」
 フランシスが朝の食事に間に合ったためしはないので、朝食の席はいつもリディアと二人だけだ。
 とはいえ、給仕係としてエドガーの従者と、リディアの小間使いがいる。
 片方が部屋の外へ用事をすませに行っても、必ずどちらかが部屋の中にいる。
 主人のニーズに最大限応えるためには当たり前の配慮だとしても、どうにもエドガーには彼らが自分たちを二人きりにさせないように図っているように思える。
 とくに男装の小間使いの目線がときどき刺さるような気がする。以前に一度彼女をまいてリディアと二人きりになったことがあるエドガーは、それも仕方ないことかと小さく息をつく。
 しかし、エドガーの態度が若干改まったこともあり、リディアはずいぶん落ち着いているように思う。
 目が覚めた最初は親しげな様子を見せながらも、あからさまに警戒する態度をとっていたけれど、今ではゆったりとした表情で食事をともにすることができていた。
 警戒するリディアも毛を逆立てた仔猫のようで可愛いが、屈託のない笑みでエドガーに向かう彼女を見ている方が心地がいい。
 実際に触れているわけでもないのに、リディアの笑い声を聞くと身体の奥からぬくまっていくようだ。
「目が覚める直前まで、なんでかきみがそばにいるような気がするんだ」
 リディアが朝食を食べる綺麗な所作をぼんやりと眺めながら呟く。
 彼女がベーコンを切り分けていた手を止めて、エドガーを見た。
 その瞬間にリディアの瞳に光が入り、淡い緑色に金色の花が咲いたようになる。目を細めてそれを眺め、伸ばせない手の代わりに真っ直ぐに見つめて微笑んだ。
「淡い緑色の瞳が目を開けたらすぐそばにあってくれるような気がする。でも、実際に目を覚ましてみたらきみはいない」
「……当たり前じゃない」
「そうだね。でも、そうなのかな? どうしてだろう、それが無性に寂しくて、早くきみに逢いたくてたまらなくなるんだ」
 戸惑ったように目を伏せるのは、困っているのか、照れているのか。うっすらと赤くなった頬が可愛くて、柔らかそうなそこにキスをしたくなってしまう。
「もう。食事中くらい、その口説き文句はなんとかならないの?」
「心外だな。本音を言ってるだけなのに」
 頬を染めたまま、リディアはむっつりと黙ってしまう。踏み込みすぎたのかな、と不安になっていると、彼女がぽつりと口を開いた。
「そんなことになったら、困るのはあなただわ」
「……」
 そんなことない。大歓迎だ。
 そう言えなかったのは、リディアがあまりにも寂しそうな顔をするからだ。
 呼応するかのようにエドガーの胸がしめつけられるように痛む。
 駆け寄って抱きしめたい。大丈夫だよと言って、頭を撫でて。
 けれどそんなことをしたら、ますますリディアの顔は曇ってしまうのだろうか?
「リディアさん、食後の紅茶はミルクティーでよろしいですか?」
「あ……ええ、お願い。あとできれば、小さなカップにミルクだけいれてきてくれるかしら」
「かしこまりました」
 重くなりそうな空気を、リディアの小間使いが紛らわしてくれた。
 ほっとするが、ちらりと一瞥をくれられて、エドガーはむっとするような、落ち込むような気分を味わう。
「……ミルクは、きみの猫のため?」
 それでも取りなすように笑ってみせると、リディアも目を合わせて微笑んでくれる。
「ニコは紅茶が好きなのよ。そうじゃなくて、ホブゴブリンがいるみたいだから。ほらあのお花、萎れかけてたのに今朝は元気になってるわ。ビスケットがあればいいんだけど、ミルクだけでも喜んでくれると思うから」
 部屋に飾られている花瓶を見ると、確かに生き生きとしているように見える。けれど昨日の花の状態なんて覚えてないし、水を換えれば萎れかけていたものが生き返ることもあるかもしれない。
 そうは思いながらも、リディアが妖精の仕業と言うのなら、エドガーもそう信じようと思う。
 食後の紅茶に口をつける頃には、気まずい空気はどこかへいってしまった。
 リディアは窓辺に置いたミルクのカップを見やり、時折目を細めて笑う。エドガーはそっと身を乗り出して、内緒話をするように彼女に顔を近づけた。
「妖精がいるの?」
「ええ。花瓶の影に隠れてたみたい。喜んでるわ」
 妖精のことを語るリディアは楽しげで、そして無防備だ。内緒話にかこつけて顔を寄せても逃げようとしない。
 丸い額にキスをしたらきっとびっくりさせてしまうから、エドガーは間近でリディアの顔を見つめる。
 長い睫毛や細い眉、小さな鼻梁はリディアの可愛らしさを引き立てていて、不思議と心惹かれる金緑の瞳はいくら眺めていても飽きが来ない。
 ふと、リディアが視線を逸らし、驚いた顔をした。
 何事かと見守っていると、満面の笑みをエドガーに向ける。
「エドガー、虹が出てるんですって。見に行かない?」
「ここからは見えないみたいだけど」
「甲板に行けば見えるみたい。早く行かないと消えちゃうわ」
 無邪気に急き立てるリディアに憂いの影はなくて、エドガーはやっと緊張を解く。
 笑顔で頷くと、当たり前のように小間使いと従者が後に続いてこようとした。
「ちょっと出るだけなんだから、ぞろぞろついてくることはないよ」
「しかし……」
 声に出して渋るのは小間使いだが、脇では従者も同じような顔をしてエドガーを見ている。むっとして眉をひそめた。
「僕とリディアはお互いに認め合ってる友人同士だ。大切な友人に不名誉になるような真似を僕がするとでも?」
「アーミン、すぐに戻るわ」
 リディアが言うと、美貌の小間使いはやっと引き下がった。
 美人だけど固いな、と唇を尖らせていると、リディアが、くいっとエドガーの袖を引っ張った。
「あの、不愉快にならないでね。アーミンは心配してくれてるだけなんだから」
「わかるよ。彼女にとって、きみは大切な主人なんだから」
「あたしのこともだけど。あなたのこともよ」
 首を傾げると、苦さを隠しきれていない微笑を返された。
 リディアのこんな顔を見るたびに、エドガーの中にもやもやがたまる。なくした記憶を取り出せないことに焦燥すら感じる。
 何かを言い募りたくなる衝動を堪えて、リディアに手を差し出した。
 彼女はごく自然にその手をとり、寄り添うようにして緩く繋がる。
「エドガー、ごめんなさい」
「どうしたの?」
「あたし、人間関係が苦手で……友達だっていうのに、うまく振る舞えなくて」
 朝食の席でのことを気にしているのだろうか。俯きがちになるリディアの手を、励ますようにぎゅっと握る。
「友人でいるのに、上手とか下手とかないよ。そのままでいいじゃないか」
「でも多分、気を許しすぎてしまうの。いけないってわかってるのに」
 どうしていけないんだ、とは言えなかった。自分と彼女の身分を考えれば、わざわざ問う必要もないことだ。
 けれど、これはエドガーのわがままなのかもしれないけれど、リディアには距離を取ろうとしないでほしい。
「……前からそうだったってことだろ? なら、問題ないじゃないか」
「でも、あなた時々困ってるわ」
「できれば気にしないでほしいな。僕の方はそのうち慣れるし、きみとこうしていられるのは嬉しいんだ」
 握った手を指して、ね、と笑う。リディアは躊躇いがちに視線を上げて、それからはにかむように微笑んだ。
 思わずくらりと目眩がして、早まったかもしれないと思う。けれど。それでも。
 エドガーは笑顔を保ったまま、あらん限りの言い訳を考えながら、ちょうどいい位置にあるリディアの額にキスをした。
 リディアは目を瞬かせながら頬を染め上げて、少しの間表情に迷った後で、仕方ないとでも言うように微笑む。
 その笑顔があまりに柔らかくて、引き寄せられる力に抗うのにとても苦労した。
「……やっぱり、慣れないかもしれない」
「え?」
「いや、なんでもないよ」
 虹が見えたよ、と促すと、リディアは一瞬にして顔を輝かせた。
 甲板に人がいないのをいいことに、エドガーの手を離れて少女のように駆けていく。
 危ないよ、と慌ててその後を追いながら、彼女の存在がますます自分の中に焼け付いていくことに、甘い痺れを感じていた。
 

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コメント
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相変わらず素敵すぎます
おひさしぶりです。
いつも可愛らしいお話をありがとうございます。
今回の特に気に入りました~。もうすぐ新刊ですけど、本編のもやもやエドガーが楽しみです。
春コミに出展されるそうで、とてもとても行きたいのですが、休みがとれそうになく(; ;)
是非!落ち着きましたら通販を期待しております。
これからもがんばってくださいね~。
木苺 2012/03/06(Tue)08:16:23 編集
ありがとうございますv
お久しぶりです! 返信が遅くて申し訳ありません><
思春期してるエドガーが可愛すぎて、テンションが上がってしまいますね!(なんか違う)新刊でもやもやエドガーが拝めて、だいぶ満足してしまいました(´ワ`*)
春コミへの激励と、通販のご要望をありがとうございますv おかげさまで両方とも無事に準備することができました><v
コメントをありがとうございましたv
【2012/04/04 13:44】
無題
ごろごろする位素敵です。
依頼してくださった方にも感謝してます
でもやっぱり記憶のないエドガーは幼いですよね。
公爵御曹司エドガーも可愛いのですが
本編で早く記憶取り戻して欲しいとこです。


HARUコミいけたら行く予定なんですが
もしいけなかったら通販期待してますんで
よろしくお願いします
natuki 2012/03/06(Tue)08:23:05 編集
Re:無題
お返事遅くなって申し訳ありません>< そしてリクの消化もお待たせしてしまって…! やっとアップすることができましたので、またご覧くださると嬉しいですv
ごろごろしてくださいましたか!(笑
思春期エドガーは書いてて楽しかったです。なんとなく未熟で、なんとなくすれてなくて、なんとなく余裕がないのがなんだかすごく可愛いと思います(´v`*)
まあしかし、やっぱりもとのエドガーがあるからこその可愛さですよね! 早く心底幸せそうな二人が本編で拝めますように。
コメントをありがとうございましたv
【2012/04/04 13:47】
ありがとうございます!
モニターをさせていただいたまるです。
リクを叶えていただいたお礼が遅くなり、
大変申し訳ありませんでした。
からくりナイトメアが夜なのに対して、
こちらは朝から昼のエドガーのどきどきが伝わってきます。
昼も夜もリディアに揺さぶられるエドガー、
にまにましながら拝見しました~!
こんな素敵なお話を書いていただき、本当にありがとうございました!!
そして新刊の通販、よろしくお願いいたします^^
まる 2012/03/27(Tue)12:19:51 編集
ありがとうございました!
まるさんこんにちは! モニターと通販のご利用、本当にありがとうございます^^*
お礼の品でしたので、気に入っていただけて嬉しいですv 朝も昼も夜も、寝てる時もリディアに揺さぶられてればいいと思っています(笑
あれ、これだと記憶なくす前となんにも変わってない……。
本届いたよーのご報告もありがとうございます! モニターしていただけた分、良い出来になっていればいいのですが(どきどき
楽しんでいただければ幸いですv コメントをありがとうございましたv
【2012/04/05 18:18】
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