伯爵と妖精、オリジナルなど。コメント等ありましたらお気軽にどうぞv
対象年齢はなんとなく中学生以上となっております(´v`*)
新刊読みましたよ記念!
ここにアップするのいつ以来でしょうね……しかしこれでやっと広告からおさらばできます><
「十二夜~」のネタバレを含むような気がしますので、ご注意ください^^
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くだんのドールハウスが修理から戻ってきたと聞き、エドガーは嬉々としてリディアを小さな家にいざなった。
リディアとしては、エドガーの過去をタブー視していた時期が長かったからか、本当に大丈夫なのかしらと思わないでもなかったが、当の本人が至って気楽そうな顔をしているのを見て、とりあえずエドガーの意に沿おうと誘いを受ける。
誰も入ってこないように、とわざわざ釘を刺したエドガーは、リディアの手を取ると、小さな扉をそっと開いた。
なにが見えるのかしら。内心恐々としていると、目の前に現れたのは、見慣れた伯爵邸の玄関ホールだった。
「僕の記憶かな」
「どうしてわかるの?」
「ほら、あの額縁。気に入らなかったから、越してきてすぐに替えたんだ」
言われてみれば、リディアの記憶にない絵がかかっている。
きょろきょろと見回していると、エドガーに後ろから抱きかかえられた。
「ね、リディアの小さい時が見たいな」
「見たいな、って、言われても……」
「思い出してみてよ。そうだな、木から落ちたときとか?」
よりによってなんでそれなの。
心の中で突っ込みつつ、頭が反射的にその時のことを思い描いたらしい。
景色がゆらりと変わって、リディアにとっても懐かしい、スコットランドの居間の風景になる。
若い顔をしたフレデリックがおろおろと立ちつくして、ソファに座った少女と、床に跪いて手当をしている女性を見下ろしている。
「もう、あなたったら。そんなに慌てなくても大丈夫よ」
「し、し、しかしだね」
「リディアだって泣きやんだのに。しっかりしてちょうだい」
あなたは偉いわね、と頭を撫でられている幼い少女はまだ鼻の頭を赤くしていたけれど、褒められるのが嬉しいとでもいうように、にっこりと笑う。
「父さま、あたし、へいきよ」
「そ、そうかい……? ああでもリディア、もう誰も見ていないときに木登りをしてはいけないよ。大怪我をしてしまったら大変だ」
「はあい」
相変わらず髪はぼさぼさだし、泣き腫らした顔で笑みを作る顔はお世辞にも可愛いと言えるものではなくて、リディアはため息をつきたくなる。
本当によりにもよって、どうしてこんなシーンなのか。
「可愛いね」
「……無理しなくていいのよ」
「なにが? すごく愛らしいじゃないか。抱きしめて、キスしたいな」
言いながら、エドガーは実際に抱きしめているリディアのこめかみにキスを落とす。
頭に頬をすり寄せられて、思わず赤くなってしまったところで、景色がゆらりと変化した。
素朴で暖かな居間は霧散し、代わりに白を基調とした豪奢な部屋が現れる。
レースのカーテンが引かれた大きな窓の側で、揺り椅子に座った美しい女性が小さく唄を口ずさんでいた。
よく見ると、膝の上には先ほどのリディアよりも随分小さな子どもが座っている。
「かっ、可愛い……!」
リディアは思わず叫んで、身を乗り出す。
金色の髪は今よりも薄く、光を受けたところは真っ白に見える。
ふくふくとした薔薇色の頬をつつきたい衝動に駆られながらそっと近づくと、綺麗な紫の瞳が母親の姿を認めて笑んでいる様子がはっきりと見える。
暖かで、柔らかで、ラファエロの聖母子像みたい。
あまりに美しい光景に感動していると、後ろからエドガーに引っ張られた。
「エドガーの小さい頃、すごく可愛いわ!」
「きみに可愛いって言われるの、変な気分だな」
苦笑するエドガーが、過去の自分の姿を見る。彼の母親が小さな子どもにそっとキスをする様は、どこかエドガーのリディアに対するそれを彷彿とさせた。
「……お母さま、綺麗ね」
「リディアの母上もね。……ねえリディア、僕たちの母親は、髪の色がよく似てると思わない?」
「ええ。あたしエドガーの髪を見ると、たまに母さまを思い出すもの」
「なるほど、これはきみに愛されるひとつの要素なわけだ」
振り返って見上げると、自分の髪を摘んでしげしげと見ていたエドガーが、にっこりと笑った。
愛情に溢れた瞳。幼子の時とはほんの少し色合いが変わったように見える瞳が、まっすぐにリディアを見つめて、幸せそうに微笑んでくれる。
ふわり、と風が通った。
淡い色の壁紙が白一色の大理石に代わり、足下にあったふかふかの絨毯はいつの間にか赤いヴァージンロードになっていた。
ステンドグラスの色に染められた光が降り注ぐ中、祭壇の前にふたりの男女が向かい合って立っている。
真っ白な衣装に、ほんの少し彩りを添えるオリーブの花。
花婿はヴェールをそっと持ち上げて、花嫁の頬に手のひらを滑らせる。
すでに涙を零しているリディアはそっと目を伏せ、エドガーの口づけを待っていた。
彼は一時見惚れるような間をおいて、ゆっくりと顔を近づける。
優しい口づけが、無言の誓いを込めてふたりの間で交わされる。
幻のエドガーの所作を見るだけで、リディアはその感触を鮮明に思い出すことができた。
とても慎重で、柔らかい、触れるだけのキス。あんなにも彼の愛しい緊張を感じたキスは、他になかったように思う。
「素晴らしい式だったね」
「ええ……」
「僕の花嫁が綺麗すぎて、どうにかなってしまいそうだったよ」
「あ、あなただって」
素敵だった、と、もごもご呟く。
いまさらながらに恥ずかしくなって、リディアはエドガーの胸に額をぶつけるようにして俯いた。
彼はくすくす笑って、細い身体を緩く抱きしめる。
「ありがとう、リディア」
声が、とても柔らかい。エドガーの前にはまだ、幸せな風景が広がっているのだろう。
「きみを愛することができて、嬉しい」
ありがとう、と声が降る。リディアは照れてしまって、エドガーの顔を見ることができない。
もそもそと動いて、彼の肩口に顔を出した。広い背中に腕を回して、大好き、と呟くように囁く。
ゆらり、と景色が滲む先で、七色の光が万華鏡のような模様を描いた。
+++
ちびっこだいすき(そこか
リディアとしては、エドガーの過去をタブー視していた時期が長かったからか、本当に大丈夫なのかしらと思わないでもなかったが、当の本人が至って気楽そうな顔をしているのを見て、とりあえずエドガーの意に沿おうと誘いを受ける。
誰も入ってこないように、とわざわざ釘を刺したエドガーは、リディアの手を取ると、小さな扉をそっと開いた。
なにが見えるのかしら。内心恐々としていると、目の前に現れたのは、見慣れた伯爵邸の玄関ホールだった。
「僕の記憶かな」
「どうしてわかるの?」
「ほら、あの額縁。気に入らなかったから、越してきてすぐに替えたんだ」
言われてみれば、リディアの記憶にない絵がかかっている。
きょろきょろと見回していると、エドガーに後ろから抱きかかえられた。
「ね、リディアの小さい時が見たいな」
「見たいな、って、言われても……」
「思い出してみてよ。そうだな、木から落ちたときとか?」
よりによってなんでそれなの。
心の中で突っ込みつつ、頭が反射的にその時のことを思い描いたらしい。
景色がゆらりと変わって、リディアにとっても懐かしい、スコットランドの居間の風景になる。
若い顔をしたフレデリックがおろおろと立ちつくして、ソファに座った少女と、床に跪いて手当をしている女性を見下ろしている。
「もう、あなたったら。そんなに慌てなくても大丈夫よ」
「し、し、しかしだね」
「リディアだって泣きやんだのに。しっかりしてちょうだい」
あなたは偉いわね、と頭を撫でられている幼い少女はまだ鼻の頭を赤くしていたけれど、褒められるのが嬉しいとでもいうように、にっこりと笑う。
「父さま、あたし、へいきよ」
「そ、そうかい……? ああでもリディア、もう誰も見ていないときに木登りをしてはいけないよ。大怪我をしてしまったら大変だ」
「はあい」
相変わらず髪はぼさぼさだし、泣き腫らした顔で笑みを作る顔はお世辞にも可愛いと言えるものではなくて、リディアはため息をつきたくなる。
本当によりにもよって、どうしてこんなシーンなのか。
「可愛いね」
「……無理しなくていいのよ」
「なにが? すごく愛らしいじゃないか。抱きしめて、キスしたいな」
言いながら、エドガーは実際に抱きしめているリディアのこめかみにキスを落とす。
頭に頬をすり寄せられて、思わず赤くなってしまったところで、景色がゆらりと変化した。
素朴で暖かな居間は霧散し、代わりに白を基調とした豪奢な部屋が現れる。
レースのカーテンが引かれた大きな窓の側で、揺り椅子に座った美しい女性が小さく唄を口ずさんでいた。
よく見ると、膝の上には先ほどのリディアよりも随分小さな子どもが座っている。
「かっ、可愛い……!」
リディアは思わず叫んで、身を乗り出す。
金色の髪は今よりも薄く、光を受けたところは真っ白に見える。
ふくふくとした薔薇色の頬をつつきたい衝動に駆られながらそっと近づくと、綺麗な紫の瞳が母親の姿を認めて笑んでいる様子がはっきりと見える。
暖かで、柔らかで、ラファエロの聖母子像みたい。
あまりに美しい光景に感動していると、後ろからエドガーに引っ張られた。
「エドガーの小さい頃、すごく可愛いわ!」
「きみに可愛いって言われるの、変な気分だな」
苦笑するエドガーが、過去の自分の姿を見る。彼の母親が小さな子どもにそっとキスをする様は、どこかエドガーのリディアに対するそれを彷彿とさせた。
「……お母さま、綺麗ね」
「リディアの母上もね。……ねえリディア、僕たちの母親は、髪の色がよく似てると思わない?」
「ええ。あたしエドガーの髪を見ると、たまに母さまを思い出すもの」
「なるほど、これはきみに愛されるひとつの要素なわけだ」
振り返って見上げると、自分の髪を摘んでしげしげと見ていたエドガーが、にっこりと笑った。
愛情に溢れた瞳。幼子の時とはほんの少し色合いが変わったように見える瞳が、まっすぐにリディアを見つめて、幸せそうに微笑んでくれる。
ふわり、と風が通った。
淡い色の壁紙が白一色の大理石に代わり、足下にあったふかふかの絨毯はいつの間にか赤いヴァージンロードになっていた。
ステンドグラスの色に染められた光が降り注ぐ中、祭壇の前にふたりの男女が向かい合って立っている。
真っ白な衣装に、ほんの少し彩りを添えるオリーブの花。
花婿はヴェールをそっと持ち上げて、花嫁の頬に手のひらを滑らせる。
すでに涙を零しているリディアはそっと目を伏せ、エドガーの口づけを待っていた。
彼は一時見惚れるような間をおいて、ゆっくりと顔を近づける。
優しい口づけが、無言の誓いを込めてふたりの間で交わされる。
幻のエドガーの所作を見るだけで、リディアはその感触を鮮明に思い出すことができた。
とても慎重で、柔らかい、触れるだけのキス。あんなにも彼の愛しい緊張を感じたキスは、他になかったように思う。
「素晴らしい式だったね」
「ええ……」
「僕の花嫁が綺麗すぎて、どうにかなってしまいそうだったよ」
「あ、あなただって」
素敵だった、と、もごもご呟く。
いまさらながらに恥ずかしくなって、リディアはエドガーの胸に額をぶつけるようにして俯いた。
彼はくすくす笑って、細い身体を緩く抱きしめる。
「ありがとう、リディア」
声が、とても柔らかい。エドガーの前にはまだ、幸せな風景が広がっているのだろう。
「きみを愛することができて、嬉しい」
ありがとう、と声が降る。リディアは照れてしまって、エドガーの顔を見ることができない。
もそもそと動いて、彼の肩口に顔を出した。広い背中に腕を回して、大好き、と呟くように囁く。
ゆらり、と景色が滲む先で、七色の光が万華鏡のような模様を描いた。
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ちびっこだいすき(そこか
新婚さんエドリディです^^
昨日、初めて居酒屋さんでのバイトをしてきました!
おいしそうな料理がいっぱい並ぶんですよね……じゅるり。
忘年会シーズンですが、胃と肝臓を大切に!
昨日、初めて居酒屋さんでのバイトをしてきました!
おいしそうな料理がいっぱい並ぶんですよね……じゅるり。
忘年会シーズンですが、胃と肝臓を大切に!
ぱら、と雑誌をめくる音がやけによく通って耳に聞こえる。
よく暖められた部屋には控えめな音量で音楽がかかっており、柔らかな調べがエドガーの心を慰めるようにたゆたっている。
けれど、やはり耳につくのは、ぱら、という乾いた音で、エドガーはふとため息をついた。
時計を見ると、もうすぐ午後の10時になるところだ。リディアは忘年会と銘打たれた飲み会へ行っており、まだ帰ってくる気配がない。
親しい女友達と飲むだけだから、と説得されたから、エドガーはこうして家で大人しく待っている。
結婚してからというもの、リディアがこうして夕飯を友達と食べに行くことは本当に珍しいことになった。
束縛をしているつもりはないのだけれど、結果的に彼女を家の内側に押しやっているのだったら、エドガーは自分の態度を改めなくてはいけない、と思う。
彼女はもう自分のものなのだから、余裕なく、バカみたいにリディアを囲って守る必要はもうないのだ。
リディアの細い指に結婚指輪がはまってからは、くっついてくる虫の数もだいぶ減った。
それでもゼロにならないことは腹立たしいことではあるけれど、今日はロタがしっかりガードをすると請け負っていたし、大丈夫だろう。
エドガーはまたちらりと時計を見る。席の予約は9時半までと言っていた。10時を過ぎても音沙汰がなかったら、一度連絡を入れようか。
あと数分の我慢、と、ぼんやり眺めているだけの雑誌をまたぱらりとめくる。
リン、ゴーン。
チャイムの音に顔を上げる。ちょっと期待したけれど、リディアならわざわざチャイム鳴らすことはない。
誰だこんな時間に、と、少し気分を害しながらインターホンに向かうと、聞こえてきたのはロタの声だった。
「ロタ? どうしたんだ」
「いいから開けてくれよ。リディアがもうぐでんぐでんでさあ」
眉をひそめて、ロックを外す。ついでに玄関を開けて歩いてくる二つの影を見やると、リディアはロタにもたれかかりながら、ふらふらと危なっかしい足取りで歩いていた。
靴を足にひっかけて、慌ててリディアに駆け寄る。もこもこしたコートに包まれた彼女を抱き取ると、リディアはふにゃんとエドガーの胸におさまった。
「エドガー……ただいまぁ」
「おかえり。寒いから、とりあえず中に入ろう」
「ろた、ロタも、寄ってって?」
やれやれ、と肩を竦めるロタに、リディアが手を伸ばす。きゅ、っと袖を掴んだ手をやんわり外して、ロタはにっと笑う。
「タクシーを待たせてるんだ。こんな時間にお邪魔するのもなんだし、また近いうちに遊びに行こうよ」
「うん……今日は、ありがとう」
ふにゃ、と笑うリディアを抱き上げて、エドガーは首を傾げる。
「ロタは飲まなかったのか?」
「飲んだよ。でもさめた。みんなけっこう加減考えずに飲むんだよなあ」
酔っぱらった面々を順に送り届けてきたというロタに、ロタが飲み慣れすぎてるんだ、と呆れると、彼女はそうかもね、と笑う。
「助かった」
「いいってことよ」
「あ……ろた、タクシー代……」
横抱きにされた格好で身を捩るリディアを制して、ロタに埋め合わせはまた今度、と言い切る。
外は寒いし、運転手も待っているだろう。ロタも異存はないようで、またな、とリディアに笑いかけた。
軽く手を上げて去っていくロタが門の扉から出て行くまで一応見送ってから、早足で家の中へと向かう。
暖かい空気にほっと息をつき、リビングのソファにリディアを下ろす。とろんと目蓋を落としている彼女の頬を撫でると、頬のあたりだけやけに熱を持っていた。
「気持ちい……」
そう言って、エドガーの手に重なったリディアの指先はとても冷たい。
ずいぶんと酔っているようすに、エドガーはちょっと心配になる。
「リディア、気分は? 気持ち悪くない?」
「ううん、大丈夫。ぼーっとしちゃうけど……」
いつもよりもゆっくりとした喋り方。ぽわっとした眼差し。
可愛いなあと思ったから、エドガーは彼女に顔を寄せた。
赤くなった頬に、目蓋に唇を寄せて、リディアがふにゃりと嬉しそうな笑顔を見せると、エドガーはぎゅっと彼女を抱きしめた。
抱きしめながら、マフラーやコートを脱がせていく。
「水を持ってくるよ。ちょっと酔いを覚ました方がいいな、シャワーも浴びたいだろ?」
ん、と不明瞭な声を上げるリディアから手を放そうとしたとき、ニットに包まれたしなやかな腕がエドガーの首に回った。
身を屈めさせるように引き寄せて、抱きついてくるリディアの腰を、エドガーは反射的に支える。
ますます密着した身体をはがす気になるはずもなくて、数秒逡巡したのち、結局彼はリディアを膝の上に抱え上げてソファに座った。
「どうしたのリディア。飲み会は、楽しくなかった?」
「ううん、ひさしぶりにみんなと話せたし……結婚式、以来の子も、何人かいて」
否定しながらも、その声はなんだか拗ねているようだった。
遠慮のない間柄の女同士で交わされた会話に、なにか彼女の機嫌を損ねるような内容があったのだろうか。
珍しくべったりと甘えてくるリディアの頭をやんわりと撫でると、リディアは心地よさそうに息をついた。
「浮気に、注意しなさいよ、て」
「は?」
「みんなして、そんなことばかり言うんだもの……」
肩口に額をすり寄せてくるリディアの声は、完全にふて腐れていた。
酔って幼くなっている動作と、甘えるような声音に、エドガーは悪い気はしなかったけれど、ちょっと苦笑する。
「メンバーは誰がいたんだっけ」
「ロタと…………ううん、内緒。エドガー、怒るでしょ?」
「怒らないよ」
うそ、と決めつけてくすくすと笑うリディアの酔いはまだまださめないらしい。
少しでも水を飲ませた方がいいんじゃないかな、と、明日なるであろう二日酔いを心配しながら、エドガーはリディアをやんわりと撫でる。
手のひらを滑らせるたびに、リディアの目元がふんわりと緩む。このまま眠ってしまいそうだなとも思いながら、エドガーは彼女の額に口づけた。
「ごはん、なに食べたの?」
「大したものは食べてないよ。リディアの手料理が恋しかった……けど、毎日作るのも、大変だよね」
「おいしい、って、食べてくれるから、嬉しいわ」
身じろぎをするリディアの、ふわふわの髪の毛が頬を撫でてくすぐったい。
「明日は、エドガーの好きなもの、作るわ」
「暖まるものがいいな。明日は雪が降るそうだし」
「つもるのかしら。運転、気をつけてね?」
「大丈夫だよ、距離はそんなにないし。明日は外回りの仕事もないはずだから。リディアも、出かけるんなら暖かくしていくんだよ」
「ん……明日は、買い物に行くくらい、かしら。なにか欲しいもの、ある?」
「とくには。重いものを買うなら、週末に一緒に行くから、ちょっと待ってて」
「浮気しちゃだめよ?」
「しないよ」
脈絡のない会話に苦笑して、ぎゅっとリディアを抱きしめる。髪をかき上げてこめかみをあらわにし、そこに唇を落とすと、そろりとリディアが見上げてきた。
口づけを待っている顔。エドガーは目を細めて微笑し、リディアにやんわりとキスをした。
唇を啄んで、綻んだのを見計らってそっと内部に進入する。
咥内は熱くて、なんとなくアルコールの香りが残っているような気がした。
「……お酒、くさい」
「僕は飲んでないよ」
「たばこも……」
「吸ってないって」
眉をひそめるリディアに笑うと、リディアがぺしっと彼の腕を叩いた。
「シャワー浴びる」
「もうちょっと待って。今行ったら倒れるよ?」
腕から抜け出そうとするリディアをとどめると、今までべったりとくっついていたのが嘘のように逃れたそうに身じろぎしだした。
大人しく腕の中に収まっているよりは、恥ずかしがって抵抗を示す方が見慣れたリディアの動作ではあるけれど、ちょっと面白くない。
酔いが覚めてきたのかな、と思いつつ、嫌がらせのように拘束の腕を強めると、リディアが「エドガー」と呻いた。
「どうしたの?」
意地悪そうに微笑むエドガーを、リディアはほんのり目元を赤らませて、きっと睨む。
「……お、お酒、くさい?」
向けられた視線に対して、その言葉は弱々しくて、エドガーはふと破顔した。
「いい匂いだよ」
「たばこ、とかも」
「気になるなら脱ぐ?」
酒の匂いはともかく、たばこの方は衣服についているだけだろう。
嬉々としてニットの内側に手を差し入れると、ひんやりとした感触が伝わったのかリディアが間抜けな悲鳴を上げた。
「いまの可愛い」
「な、なにするの!」
「酔いは覚めたみたいだね?」
アルコールとは違う原因でじわじわと顔を赤らめていくリディアに、にっこりと笑いかけて、腰をがっちりと抱きしめたままもう一方の手を動かした。
エドガー! と叫ぶ可愛らしい声がやみ、代わりに高らかな平手の音が響くのは、もう少し先のことである。
よく暖められた部屋には控えめな音量で音楽がかかっており、柔らかな調べがエドガーの心を慰めるようにたゆたっている。
けれど、やはり耳につくのは、ぱら、という乾いた音で、エドガーはふとため息をついた。
時計を見ると、もうすぐ午後の10時になるところだ。リディアは忘年会と銘打たれた飲み会へ行っており、まだ帰ってくる気配がない。
親しい女友達と飲むだけだから、と説得されたから、エドガーはこうして家で大人しく待っている。
結婚してからというもの、リディアがこうして夕飯を友達と食べに行くことは本当に珍しいことになった。
束縛をしているつもりはないのだけれど、結果的に彼女を家の内側に押しやっているのだったら、エドガーは自分の態度を改めなくてはいけない、と思う。
彼女はもう自分のものなのだから、余裕なく、バカみたいにリディアを囲って守る必要はもうないのだ。
リディアの細い指に結婚指輪がはまってからは、くっついてくる虫の数もだいぶ減った。
それでもゼロにならないことは腹立たしいことではあるけれど、今日はロタがしっかりガードをすると請け負っていたし、大丈夫だろう。
エドガーはまたちらりと時計を見る。席の予約は9時半までと言っていた。10時を過ぎても音沙汰がなかったら、一度連絡を入れようか。
あと数分の我慢、と、ぼんやり眺めているだけの雑誌をまたぱらりとめくる。
リン、ゴーン。
チャイムの音に顔を上げる。ちょっと期待したけれど、リディアならわざわざチャイム鳴らすことはない。
誰だこんな時間に、と、少し気分を害しながらインターホンに向かうと、聞こえてきたのはロタの声だった。
「ロタ? どうしたんだ」
「いいから開けてくれよ。リディアがもうぐでんぐでんでさあ」
眉をひそめて、ロックを外す。ついでに玄関を開けて歩いてくる二つの影を見やると、リディアはロタにもたれかかりながら、ふらふらと危なっかしい足取りで歩いていた。
靴を足にひっかけて、慌ててリディアに駆け寄る。もこもこしたコートに包まれた彼女を抱き取ると、リディアはふにゃんとエドガーの胸におさまった。
「エドガー……ただいまぁ」
「おかえり。寒いから、とりあえず中に入ろう」
「ろた、ロタも、寄ってって?」
やれやれ、と肩を竦めるロタに、リディアが手を伸ばす。きゅ、っと袖を掴んだ手をやんわり外して、ロタはにっと笑う。
「タクシーを待たせてるんだ。こんな時間にお邪魔するのもなんだし、また近いうちに遊びに行こうよ」
「うん……今日は、ありがとう」
ふにゃ、と笑うリディアを抱き上げて、エドガーは首を傾げる。
「ロタは飲まなかったのか?」
「飲んだよ。でもさめた。みんなけっこう加減考えずに飲むんだよなあ」
酔っぱらった面々を順に送り届けてきたというロタに、ロタが飲み慣れすぎてるんだ、と呆れると、彼女はそうかもね、と笑う。
「助かった」
「いいってことよ」
「あ……ろた、タクシー代……」
横抱きにされた格好で身を捩るリディアを制して、ロタに埋め合わせはまた今度、と言い切る。
外は寒いし、運転手も待っているだろう。ロタも異存はないようで、またな、とリディアに笑いかけた。
軽く手を上げて去っていくロタが門の扉から出て行くまで一応見送ってから、早足で家の中へと向かう。
暖かい空気にほっと息をつき、リビングのソファにリディアを下ろす。とろんと目蓋を落としている彼女の頬を撫でると、頬のあたりだけやけに熱を持っていた。
「気持ちい……」
そう言って、エドガーの手に重なったリディアの指先はとても冷たい。
ずいぶんと酔っているようすに、エドガーはちょっと心配になる。
「リディア、気分は? 気持ち悪くない?」
「ううん、大丈夫。ぼーっとしちゃうけど……」
いつもよりもゆっくりとした喋り方。ぽわっとした眼差し。
可愛いなあと思ったから、エドガーは彼女に顔を寄せた。
赤くなった頬に、目蓋に唇を寄せて、リディアがふにゃりと嬉しそうな笑顔を見せると、エドガーはぎゅっと彼女を抱きしめた。
抱きしめながら、マフラーやコートを脱がせていく。
「水を持ってくるよ。ちょっと酔いを覚ました方がいいな、シャワーも浴びたいだろ?」
ん、と不明瞭な声を上げるリディアから手を放そうとしたとき、ニットに包まれたしなやかな腕がエドガーの首に回った。
身を屈めさせるように引き寄せて、抱きついてくるリディアの腰を、エドガーは反射的に支える。
ますます密着した身体をはがす気になるはずもなくて、数秒逡巡したのち、結局彼はリディアを膝の上に抱え上げてソファに座った。
「どうしたのリディア。飲み会は、楽しくなかった?」
「ううん、ひさしぶりにみんなと話せたし……結婚式、以来の子も、何人かいて」
否定しながらも、その声はなんだか拗ねているようだった。
遠慮のない間柄の女同士で交わされた会話に、なにか彼女の機嫌を損ねるような内容があったのだろうか。
珍しくべったりと甘えてくるリディアの頭をやんわりと撫でると、リディアは心地よさそうに息をついた。
「浮気に、注意しなさいよ、て」
「は?」
「みんなして、そんなことばかり言うんだもの……」
肩口に額をすり寄せてくるリディアの声は、完全にふて腐れていた。
酔って幼くなっている動作と、甘えるような声音に、エドガーは悪い気はしなかったけれど、ちょっと苦笑する。
「メンバーは誰がいたんだっけ」
「ロタと…………ううん、内緒。エドガー、怒るでしょ?」
「怒らないよ」
うそ、と決めつけてくすくすと笑うリディアの酔いはまだまださめないらしい。
少しでも水を飲ませた方がいいんじゃないかな、と、明日なるであろう二日酔いを心配しながら、エドガーはリディアをやんわりと撫でる。
手のひらを滑らせるたびに、リディアの目元がふんわりと緩む。このまま眠ってしまいそうだなとも思いながら、エドガーは彼女の額に口づけた。
「ごはん、なに食べたの?」
「大したものは食べてないよ。リディアの手料理が恋しかった……けど、毎日作るのも、大変だよね」
「おいしい、って、食べてくれるから、嬉しいわ」
身じろぎをするリディアの、ふわふわの髪の毛が頬を撫でてくすぐったい。
「明日は、エドガーの好きなもの、作るわ」
「暖まるものがいいな。明日は雪が降るそうだし」
「つもるのかしら。運転、気をつけてね?」
「大丈夫だよ、距離はそんなにないし。明日は外回りの仕事もないはずだから。リディアも、出かけるんなら暖かくしていくんだよ」
「ん……明日は、買い物に行くくらい、かしら。なにか欲しいもの、ある?」
「とくには。重いものを買うなら、週末に一緒に行くから、ちょっと待ってて」
「浮気しちゃだめよ?」
「しないよ」
脈絡のない会話に苦笑して、ぎゅっとリディアを抱きしめる。髪をかき上げてこめかみをあらわにし、そこに唇を落とすと、そろりとリディアが見上げてきた。
口づけを待っている顔。エドガーは目を細めて微笑し、リディアにやんわりとキスをした。
唇を啄んで、綻んだのを見計らってそっと内部に進入する。
咥内は熱くて、なんとなくアルコールの香りが残っているような気がした。
「……お酒、くさい」
「僕は飲んでないよ」
「たばこも……」
「吸ってないって」
眉をひそめるリディアに笑うと、リディアがぺしっと彼の腕を叩いた。
「シャワー浴びる」
「もうちょっと待って。今行ったら倒れるよ?」
腕から抜け出そうとするリディアをとどめると、今までべったりとくっついていたのが嘘のように逃れたそうに身じろぎしだした。
大人しく腕の中に収まっているよりは、恥ずかしがって抵抗を示す方が見慣れたリディアの動作ではあるけれど、ちょっと面白くない。
酔いが覚めてきたのかな、と思いつつ、嫌がらせのように拘束の腕を強めると、リディアが「エドガー」と呻いた。
「どうしたの?」
意地悪そうに微笑むエドガーを、リディアはほんのり目元を赤らませて、きっと睨む。
「……お、お酒、くさい?」
向けられた視線に対して、その言葉は弱々しくて、エドガーはふと破顔した。
「いい匂いだよ」
「たばこ、とかも」
「気になるなら脱ぐ?」
酒の匂いはともかく、たばこの方は衣服についているだけだろう。
嬉々としてニットの内側に手を差し入れると、ひんやりとした感触が伝わったのかリディアが間抜けな悲鳴を上げた。
「いまの可愛い」
「な、なにするの!」
「酔いは覚めたみたいだね?」
アルコールとは違う原因でじわじわと顔を赤らめていくリディアに、にっこりと笑いかけて、腰をがっちりと抱きしめたままもう一方の手を動かした。
エドガー! と叫ぶ可愛らしい声がやみ、代わりに高らかな平手の音が響くのは、もう少し先のことである。
人間カイロが恋しい季節です。
ふと肌寒さを感じて、意識が浮上した。
ぼんやりと目蓋を上げて見た景色は真っ暗で、まだまだ朝は遠い時間帯なのだと知る。
リディアは無意識の動きで毛布を引き上げて、そこで自分がなにも着ていないことを思い出した。
次いで、珍しくエドガーの腕がリディアを囲っていないことに気づく。
少しずつ覚醒してきた頭で、ゆっくりと瞬きをする。真っ先に視界に飛び込んできたのはエドガー肩胛骨だ。
エドガーが背中を向けて眠るなんて、珍しい。
なんとなく寂しさを覚えて手を伸ばす。触れそうになったところで、我に返って手を引っ込めた。
まずは、服を着よう。
ひとり顔を火照らせながら、リディアはなるべくベッドを揺らさないように身を起こす。
闇に目を凝らすと、足下にそれらしい固まりが見えた。腕をうんと伸ばして、指先に引っかかったそれをたぐり寄せる。
ガウンだ。ナイトウェアが目の届くところにないかと探したけれど、見つからなかったので、ガウンだけでも羽織ることにした。
素肌に羽織ると、少しごわごわする。けれど冷えた肩がじわじわと温まる感覚に満足して、リディアはまたゆっくりと横になった。
柔らかなベッドに身をゆだねると、すぐに眠気が襲ってくる。リディアはぼんやりとエドガーの背中を眺めながら、目蓋が自然に落ちてくるに任せた。
呼吸音が部屋の静けさに吸い込まれていく。
リディアは身じろぎして、エドガーの背中にすり寄った。
深い呼吸は乱れない。こんなに近くにいても目覚めないエドガーに、気を許してくれている証があるような気がして、リディアはふと微笑む。
そ、と、手を伸ばした。背中から腹に、細い腕を絡める。
感じる体温にどきどきする。しばらくは眠るどころじゃなくなってしまったリディアだけれど、エドガーに起きる気配がまったくないことがわかると、じきに眠りに落ちていった。
鳥のさえずる音が聞こえて、エドガーはふと目が覚めた。
よほどのことでない限り、朝一番で鳴き始める小鳥たちの声が聞こえると、一度は目が覚めてしまう。
まだ眠いのに、と、エドガーは目蓋を閉じたまま眉をしかめる。昨夜も眠った時間は遅いのだから、もう少し寝ていてもいいだろう。
隣にいるはずのリディアを抱き寄せようと、エドガーは自分が向いている方向に向かって腕を伸ばした。
緩慢に動かしながら、いくら伸ばしてもシーツの感触しか感じないことを不審に思う。
ゆっくりと重い目蓋を上げると、ベッドの上にリディアの姿はなかった。
「え……」
まだ朝も早いのに。どうしたのだろう、と心持ち焦って背後を振り向こうとしたら。
むぎゅ。
「え」
何かを肩で押し潰したような感覚がして、慌てて体勢を元に戻す。すっかり眠気が覚めたエドガーは、なるべく身体が動かないように固定して、首を後ろに巡らせた。
早朝の薄暗さの中で柔らかな色合いを持った、キャラメル色の頭が見えた。
起こしてしまったか、痛くなかったか、そんなことを心配しながら身を起こそうとしたけれど、胴にリディアの腕が回っているのに気づいて、驚くと共に動くのを躊躇する。
珍しくも抱きしめてくれた腕を振り解くなんて、もったいない。
結局エドガーは、リディアが変わらず健やかな寝息を立てているのを確認すると、元のように横になり、リディアの腕が自分から外れないように引き寄せながら、ゆっくり彼女の方に身体を反転させた。
なんで背後にリディアがいるのだろうと思ったけれど、どうやら背中を向けたのは自分らしい。
抱き合った後、いつもと同じようにリディアを腕に抱え込んで横になったけれど、すうっと彼女が寝入ってしまったから、負担にならないように腕を解いたのだ。
腕枕をするにしても、抱きしめて眠るにしても、夜の間中その体勢でいるのはちょっときつい。疲れて眠ったリディアをますます疲れさせるのは忍びない。
だいたいリディアは、恥ずかしいと言って腕枕を嫌がる。腕を枕にすることも、寝ころびながら至近距離で視線を交わすのが恥ずかしいらしい。
そんなリディアも可愛いなと思うエドガーだけれど、そうやってリディアが嫌がるから、抱きしめて眠りたいときは胸に彼女の頭を抱え込むようにしている。
今も、向き合ったリディアを抱きしめると、エドガーの鎖骨のあたりに彼女の額がくる。
少し絡まった長い髪を丁寧に解きながら手で梳いていると、リディアが小さく呻いて身じろぎした。
背中に回った腕がもぞもぞと動く。細い指先が、たどたどしくエドガーの裸の背中を撫でる感触に思わずぞくりとする。
そういえば、どうしてリディアはガウンを着ているのだろう。
頭から背中、その下へと手を這わせて、ガウンの裾が途切れたあたりの太ももを撫でる。柔らかさと、滑らかな手触りが気持ちよくて触っていると、リディアの腕がエドガーの胸を押した。
キャラメル色の合間から覗く頬が、真っ赤になっている。
「おはよう、リディア」
「どこ、触ってるの……っ」
「まだ早いから、眠ってていいんだよ」
言いながら、ガウンの裾を持ち上げるようにして手を動かすと、リディアは慌ててエドガーから離れようと身を捩る。
くすくすと笑って手を離し、腰をぐっと引き寄せた。
むぐ、と顔をエドガーの胸に押しつけたリディアが変な声を出す。
「脱がせていい?」
「だ……、だめよ」
「直接、触りたいな」
至近距離で、シーツに埋もれて、甘い睦言を囁くように、ひそひそと声をひそめる。
ガウンの上から背中をなぞると、リディアのからだが細やかに震える。抗議をするように押しのけようとするけれど、その力は弱々しい。
もう一押しかな。思いながら、リディア、と耳元で囁いた。
「や……だ、だって、……寒いもの」
可愛らしい言い逃れだと笑おうとして、ふと気づく。
「もしかして、昨夜も寒かった?」
「え? あ、ええと」
「だから抱きついてくれたんだ」
そういえば、リディアが触れていてくれたから、背中がぬくくて気持ちよかった。
やっぱり眠るときは抱きしめておこうかな、と考えていると、リディアが焦ったような声を出す。
「寒いからって、あなたをニコみたいに扱ったりはしないわ」
「……寒いときは、ニコにくっついて眠ってたの?」
「小さいときだけだけど」
なんて羨ましい。思わず両腕を回してリディアを抱きしめると、きゃ、と小さな悲鳴が聞こえた。
じゃあどうしたの、と、理由を尋ねるのも野暮かと思いながら言い募る。
「エドガーが、起きないから……」
「寂しかった?」
「そうじゃなくて。その……気を許してくれてるんだと、思ったら」
もごもごとリディアの声が小さくなる。髪をすくって耳元を覗くと、ほんのり赤い。
愛しくなって、エドガーは笑う。
「わかるよ。僕も、きみの寝顔を見るとキスがしたくなるから」
「キ……」
「リディアから抱きしめてくれて、嬉しかった」
きゅ、と、リディアの頭を抱え込む。胸元で彼女がもそりと動いて、細腕がもう一度エドガーの腰に回された。
愛してるよ、と囁くと、微かに笑う気配がする。
「で、脱がせていいのかな?」
「……脱ぐんだったらこのまま起きます」
にわかに口調が改まったリディアに、残念、と息をつく。口元を緩ませたまま、柔らかな頭に頬をすり寄せた。
「真実の閃光」→「Dear Full of Fire」となったわけですが、こちらではそのまま「真実の閃光」で^^
これ以降あんまり書くこともないでしょうが><
ブログ掲載時に入れ損ねて、本にする時にも入れ損ねた切れっ端です。とくに内容はないのですが(…)
エドガーの記憶が戻った直後の夜、です。リハビリかねて投稿ですー(´ワ`)
これ以降あんまり書くこともないでしょうが><
ブログ掲載時に入れ損ねて、本にする時にも入れ損ねた切れっ端です。とくに内容はないのですが(…)
エドガーの記憶が戻った直後の夜、です。リハビリかねて投稿ですー(´ワ`)
浴室で汚れを落としながら、自分の身体がどうなっているかを確認する。
脇腹に治りかけの傷が増えている以外は、記憶の中と大差ないように思う。肉がついた様子も、やせ細った感じもしない。
滴を拭き取り、ガウンを羽織って、なんとなく肩を回してみる。ぴりりと傷が引きつるのを感じながら、1ヶ月で身体が変わるわけないか、と落ち着いた。
エドガー自身の身体だけじゃなく、邸の雰囲気も、使用人たちも、彼が見知っているものと大きな違いはない。
記憶を失っていたなんて、人から指摘されなければきっと気づかなかっただろう。
「……リディアは大丈夫かな」
けれどただひとつ、どうしたんだろうと思うほど不安定になっているものがある。
エドガーが記憶を取り戻したと知った途端に大泣きしたリディアは、エドガーが少しでも離れるのを嫌がる素振りをする。
心細そうな顔をして、彼の上着を掴んだ手をなかなか離せない。
一緒にお風呂に入る? と聞いたら真っ赤になって離れていったのはとてもリディアらしい行動だけれど、なんでもないときに不安がってくっついてくるなんて、どれだけ寂しい思いをさせたのだろう。
弱々しい姿が痛ましくて、調子に乗る気にもなれない。ひたすら優しくしなくては、と思うけれど、どれほどのスキンシップを許してくれるだろう。
寝室に行くと、ソファにちょこんとリディアが座っていた。
エドガーの姿を認めるとほっとしたように相好を崩し、彼を迎えるように立ち上がる。
思わず大股で歩き、リディアの傍に身を寄せた。
「ごめんね、待たせたかな」
「ううん。あの、傷は大丈夫?」
当たり前のように肩を抱くと、当たり前のように身を寄せてくる。
ぴったりとくっついたままソファに腰掛けると、ケリーとレイヴンがタイミングを計ったように紅茶を運んできた。
湯気が立っている紅茶にブランデーを垂らし、一礼すると静かに出て行く。
「平気だよ。もうほとんどふさがってる」
「そう、よかった……」
柔らかな髪の毛を弄ると、まだ少し湿っていた。水気を飛ばすように指で梳くと、ふわりといい香りが漂ってくる。
「今日のお湯は、ローズオイル?」
「薔薇だけだときついからって、ケリーがブレンドしてくれたの。なんだったかしら、ラベンダーと……」
お湯に浸かって、紅茶を飲んで、落ち着いたのだろうか。リディアの穏やかな様子に、エドガーは密かにほっとする。
肩に掛かる体重が重くなった。顔を覗き込むと、軽く目を瞑ってしまっている。
エドガーはリディアの手から空になったカップをとり、ベッドに行こう、と促した。とろんとした目で、リディアは眠たそうに応じる。
あどけない、可愛らしい様子に頬が緩む。リディアが立ち上がる前に、エドガーは彼女を横抱きにして抱き上げた。
「えっ……エドガー」
「寝ぼけて転ぶといけないから」
そんなこと……と、もごもご呟いていたけれど、リディアは大した抵抗もせずにエドガーの首に腕を回した。
ことんと頭を方に預けてくる仕種は本当に眠そうで、疲れてるな、と胸が痛む。
あれだけ泣けば、無理もないことだと思うけれど。
ふかふかのベッドにそっと下ろすと、細い身体が静かに沈んでいく。
そのまま眠ってしまいそうなリディアの頬を撫で、髪を梳いて、おやすみと囁く代わりに額にキスを落とした。
疲れてるなら、一緒に眠らない方がいいだろうな、と、少し残念に思いながら考える。
静かな呼吸を繰り返すリディアを眺めてから、彼女をゆっくり眠らせるために、別の部屋へ行こうとした。
「………エドガー?」
踵を返そうとしたところを呼ばれて、振り向く。
眠そうな目を瞬かせていたリディアは、エドガーがどこかへ行こうとしていたと気づくと、一気に不安そうな顔になった。
「どこに行くの?」
身を起こして切羽詰まった声を出すリディアに驚き、手を伸ばして抱きしめる。
エドガーの体重で沈んだベッドの揺れが収まるまでぎゅっとリディアを抱きしめ、優しく優しく髪を梳いた。
「……寒いかなと思って。毛布を取ってこようとしただけだよ」
「いらないわ」
小さな手のひらの感触を背中に感じる。うん、と呟いて、エドガーはリディアを抱いたまま上掛けの下に潜り込んだ。
普段なら苦しがって、恥ずかしがって離れようとするくらい、強く腕に力を込める。
エドガーの胸に顔を埋めたまま動かないリディアの腕の力が緩むまで、エドガーは細い身体を抱きしめていた。
ニコの手ってなんでいろいろ持てるんでしょう。
確か缶詰とか鏡とか持ってましたよね……ドラえもんの原理?(´・ω・`)
確か缶詰とか鏡とか持ってましたよね……ドラえもんの原理?(´・ω・`)
「ニコは自分で鏡を持ち歩かないのかい?」
ティールームでのくつろぎの時間。紅茶を飲み終わって毛繕いをし始めたニコにかいがいしく鏡を差し出したレイヴンを見て、エドガーがぽつりと呟いた。
呟いてから、合点がいったようにひとりで頷く。
「そうか、その手じゃ持てないね」
「鏡くらい持てるよ! 猫扱いするな!」
「そのかたちはどう見ても猫だろう……」
フーッと毛を逆立てるニコに、エドガーは呆れ気味に一瞥をくれる。
その横でお茶菓子のクッキーを摘んでいたリディアもエドガーの言葉に同調するように頷いた。
「そういえば、やたら鏡とか窓ガラスを覗いたりするけど、手鏡を持ち歩くことはないわよね」
「まあ、レイヴンが楽しそうだからいいんだけどね」
相変わらずの無表情をしたレイヴンがどこか誇らしげに首肯した。
もうすっかりニコに鏡を差し出すことを自分の役目だと決めている様子に、エドガーは軽く苦笑する。
「僕にだって鏡を差し出したりはしないのにね」
それはエドガーがとくに必要としていないからだけれど、自分にすら焼かない世話を他のものに焼いているレイヴンを見るのは、なかなかに感傷が深い。
身だしなみを終えたニコが、腕を組んでふんぞり返った。
「あんたは自分で持ってんだろ」
「持ち歩いたりしてないよ」
えっ、と声を上げたのはリディアだ。
「エドガー、持ち歩いてないの?」
「とくに必要ないだろ?」
やたらと意外そうな顔をするリディアに、エドガーは首を傾げる。
「自分の顔が大好きなあんたが鏡を持ち歩いてないのが意外なんだよ」
にやにやと笑いながら言うニコにものすごくバカにされている気配を感じて、エドガーはとりあえず手を伸ばして遠慮なく毛並みを乱した。
ぎゃあ! と悲鳴を上げて距離を取るニコを尻目に、失言した、という顔をしているリディアをにっこりと覗き込む。
「リディア?」
「あ、あの……、別にあなたがナルシストとか言ってるわけじゃ」
「なるほど。僕のこと、そんなふうに思ってたんだね」
「違うってば……!」
心外だ、そんなふうに思われてたなんて哀しいよ、と悲壮な顔をしてみせると、リディアは眉尻を下げて慌て出す。
素直な反応に可愛いなあと思いながら、冗談だよ、と笑うと、今度はむうっと頬を膨らませてしまった。
「……でもエドガー。自分の顔、大好きでしょ?」
「いろいろと便利に使ってきたから、嫌いとは言えないけどね」
便利に、というフレーズが悪かったのか、リディアがちょっと眉を曇らせた。
どんな表情のリディアも可愛いと思うけれど、悲しませるのはいただけない。胸元に垂れている柔らかな髪をすくい取って、緩く弄りながら微笑んだ。
「でもだからといって、四六時中眺めていたいとは思わないよ。鏡の中の自分を見る暇があるなら、ずっときみを見つめていたいな」
瞳をじっと覗き込むと、リディアの頬に赤みが差した。
ニコもレイヴンも夫婦のこんな戯れには慣れっこで気にもとめていないけれど、リディアだけが人目を気にして、身を寄せようとするエドガーをさりげなく押し返してくる。
「便利って……こういうふうに、女の子を口説くときにってこと?」
リディアの眉間に皺が寄るのを見て、エドガーは柔らかく笑う。他愛のないやきもちが可愛らしい。
身を乗り出して額に口づけると、細い肩がくすぐったそうに竦められた。
頬を手のひらで包んで、額をあわせる。甘くとける心情のままに瞳を和ませれば、リディアも力を抜いて無防備な表情を見せてくれる。
「その点については役立たずだったかな。肝心のきみはなびいてくれなかったし」
「そんなこと……」
言いかけて、あ、とリディアが口をつぐんだ。
顔が見る見るうちに赤くなる彼女を意外な思いで眺めながら、身体を引こうとするリディアをやや強引に抱き寄せる。
「なびいてくれてたの?」
「な、なびくっていうか……だって、あの、きれい……だから」
目線を逸らしながらぼそぼそと喋るリディアの、滅多にない賛辞に、エドガーは素直に嬉しくなった。
「初めて聞いた。きみにそう思ってもらえるなら、この顔に生んでくれた母親に感謝しなくちゃいけないね」
ありがとう、と満面の笑みで告げると、リディアがおずおずと見上げてくる。恥ずかしげな表情で、それでもふわりと瞳を和ませるリディアに、エドガーは優しくキスを落とす。
「でもやっぱり、鏡を見るくらいなら、きみを見ていたい」
「……あんまり見てたら、きっとすぐに飽きちゃうわ」
「飽きるなんて、絶対ないよ」
今ですら、リディアの些細な一挙一足に魅入られ続けてるというのに。
あいしてるよ、と囁く声が、自分の耳にすら甘く響く。毒を含まない、ただただ柔らかなその声音に、こんなにもリディアが好きなのだと改めて思う。
リディアがなにかを言いかけて、恥ずかしがって視線を逸らした。どうしたの、と引き寄せると、頬を薔薇色に染めたリディアが、エドガーの肩に額をくっつけて、くすぐったそうに笑みを零した。
「あなたのその顔が、いちばん好き」
小さく小さく、ほとんど吐息だけで告げられた言葉に、いま鏡が欲しいなと、こっそり思った。
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