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伯爵と妖精、オリジナルなど。コメント等ありましたらお気軽にどうぞv 対象年齢はなんとなく中学生以上となっております(´v`*)
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書いてたら長々してしまったオリンポスのいつものメンツです。
『イーリス』(虹の女神。ゼウスの伝令役)のイリシャンというキャラは初登場かな?
『イーリス』は女神ですが、イリシャンは男です。
セツナはアイリーンのこと思い出して、いろいろ事件が終わったあとは、アイリーン一筋を飛び越えて一直線! みたいな感じになってると思います。この二人は身体的な接触は少ない気がするけど、精神的にべったべた。
サラムとキュレイアは男の子の兄弟みたいなイメージで書いてます。やんちゃな仲良し兄弟^^* でも兄弟みたく思ってるのはキューアの方で、サラムは一応女性として扱う気はあると思います。でも手の焼ける妹みたく思ってそう。

+++


「境界域で暴動が?」
 十二人の『神憑き』が治める神山で、実質的に執務を担っているのは智の神『ヘルメス』を筆頭とした面々である。
 その内の一人、戦の神『アレス』を憑き神に戴くセツナは、『ヘルメス』のサラムが告げた言葉に眉をひそめた。
 移動中の軽い雑談として話題を提供しただけのつもりだったサラムは、足を止めたセツナよりも半歩進んだ先で振り返る。
 鋭利な眼光をいっそう際立たせるように細い眉をしかめているセツナをまじまじと見やって、首を傾げた。
「境界域っつっても、神山のふもとよりももっと先の話だから、お前の出番はないと思うぞ」
「神山でなく、下界の――大神殿の管轄だと言うことはわかってる。だが、対応できるものがいるのか? 神官長はとうに軍人を引退しただろう」
「そりゃ、じいさんが英雄だったのは20年も前のことだからなあ。やろうと思えばやれるんだろうが、じいさんの出る幕もないだろ」
「じゃあ誰が出るんだ」
 いつの間にかサラムのことを睨む体になっているセツナの表情にある懸念を感じ取って、思わず呆れ声になる。
「リーンだよ。わかってんだろ? 他に適材はいないだろうが」
 いっそう眉をしかめるセツナに、どうしたもんかと頭をかく。
 リーンが見かけ通りのたおやかな女性ではないということは、近しいものならみんなが知っていることだ。
 しかし、もっとも近しい位置にいるはずのこの男は、その事実をなかなか飲み込めずにいるらしい。
「おい、セツ……」
「下界に行く」
「マジかよ」
 身を翻して今にも飛び出していきそうなセツナの前に回り込み、両肩をがっしと掴んだ。
「ちょっと待てって。落ち着けよ、リーンなら心配いらねえだろ」
「そういう問題じゃない」
「うっせえ。『アレス』が出て行って大事になる方が問題だっての」
 落ち着け、考え直せ、と迫るサラムを前に、セツナは「む」と考える顔になる。
 手際よく抑えればそれで収まる小さな暴動を、『アレス』の出現によって大いなる混乱に発展させる可能性は、セツナにだってわかっていることのはずだ。
「わかった」
「そうか、よかっ……」
「ばれないように行く」
「そういう問題じゃねえ!」
 押し合いをしている内に、だんだん声も高くなっていたらしい。
 遠巻きに二人の『神憑き』を眺めていた人垣を割って、見知った女性が歩み出てきた。
 『アフロディテ』を憑き神に持つキュレイアは、その顔を見慣れているサラムとセツナにとっても、一瞬ハッと気を惹かれる美貌を持ち合わせている。
「ちょっと、なにこんな所でじゃれてるのよ」
「そんな微笑ましいもんじゃねえよ……キューア、眠り薬とか持ってねえか?」
「馬鹿か。持ってきたところで大人しく飲むわけないだろう」
「馬鹿はお前だ馬鹿。聞き分けろって。お前のそれは公私混同だろうが」
「だから、公ではなく私として出向くと言ってる」
「無理だろ無理無理! ああもうやっぱ昏倒させるか……」
 だんだん力のかけ方が本気になってきた二人の頭を、キューアは持っていた分厚い書物でばっこんばっこんと叩いた。
「だから、こんな所でじゃれてる理由を説明しなさいってば!」
 仁王立ちになるキューアを恨みがましい目で見上げながら、サラムは事情とも言えないような事情を説明した。
「というわけで、だ。キューア、眠り薬もってこい」
「別に、行かせればいいじゃない」
 さらりと言うキュレイアに、サラムは半眼になる。だがサラムが口を開く前に、キュレイアが手を振ってそれを遮った。
「リーンの顔見りゃ落ち着くでしょ。セツナもまさか、自分が出て行って暴動を収めようとしてるわけじゃないでしょ? そんなことしたら大混乱だもの。リーンだって嫌がるわ」
 むぐ、とセツナの口から変な音が漏れたが、サラムもキュレイアも聞き流す。
「そうだな、セツナの手出しを一番嫌がるのはリーンだな。大神殿から出なけりゃ問題ねえか……そういうことなら行ってきていいぞ、セツナ」
 ただし、と、サラムは付け加える。
「大神殿から絶対出るなよ。あと、曲がりなりにも降臨するわけだから、正装してけ。マントくらいしてけ。重いほうのな!」
 嫌がらせにように晴れやかな笑顔を見せるサラムをひと睨みし、セツナは自宮へと足を向けた。
 サラムの許可がなければ正規の下界への道は開かないのだ。リーンに嫌な顔をされないためにも、癪だが従わないわけにはいかない。
 イライラしたオーラを後に残しながら去っていくセツナを見送り、サラムとキューアは息をつく。
「もー、なんで口滑らすのよサラムったら」
「いやいやいや……セツナの反応がおかしいだろ。リーンだぞ? リーンが指揮するなら安泰も安泰じゃねえか」
「リーンに対しての正しい判断をセツナに求めちゃ駄目なのよ……」
「叱られてしょげて帰ってきたりしてなー。珍しいもんが見れるかも」
「面白がってんじゃないわよ!」
 ばっこん、と重い音が響く。神山は今日も平和である。

  一方、平和でないのは下界の方だ。
 久方ぶりの武官の出動に、大神殿全体が浮き足立った空気に包まれている。
 そんな中で『イーリス』を憑き神に持つイリシャンは、いつもの淡々とした様子で回廊を歩いていた。
 どうやら神山から下界への道が開いたらしい。下界から神山への道を開ける唯一の存在であるイリシャンは、門番のような役割も持っている。
 暇だからとりあえず見に行くか、といった程度のやる気のない門番ではあるが、門に辿りついて微かに目を見開いた。
「あれ、『アレス』。なんでここに」
 独特の抑揚のない口調で問いかけるイリシャンに、セツナは、ぱっと目を向ける。
「『イーリス』か。リーン……『ニケ』はどこにいる?」
「暴徒への対応にてんてこ舞いだよ。手助けしにきたの? いらないから帰ってよ」
「どこだ、と聞いている」
 瞳をすがめて、今にも殺気立ちそうなセツナを見やり、少年のように華奢な肩をひょいと竦めた。
「いらない心配だけどな」
 くるりと踵を返し、セツナを導きながらも呟く。半ば独り言だったが、セツナの耳にはしっかり届いていた。
「個人として強いのと、皆を統率するのでは勝手が違う」
「神山(うえ)に上げるまでもない小競り合いが今までいくつあったと思ってるの? 今回が初陣ってわけでもあるまいし」
「……今までにも出兵したことがあるのか?」
「あるよ。あるある。『ニケ』の名が知られる前に、あだ名もついたよ」
 あだ名? と眉をひそめる。イリシャンがくるりと振り向き、オレンジの瞳をにんまりとさせた。
「鉄の聖女、っていうんだ。強そうだろ?」
 アイリーンに似つかわしくない呼び名に、セツナはますます眉をしかめる。
 聖女はともかく。鉄とはなんだ。
「どこぞの拷問器具みたいだな……」
「当たらずとも遠からずってやつじゃないかな」
 どこが、と問いただそうとした時、さやかな衣擦れの音とともに、軽い足音が聞こえてきた。なんとなく予感を感じて、視線をやると。
「セツ! どうしたの?」
「リーン」
 薄絹の上に武具を纏っているアイリーンは、いつもよりも数段りりしい。
 『ニケ』としての正装だろうか。兜には翼の意匠が調えられている。柔らかな印象が強い彼女だけれど、無骨な装いも思いの外しっくりきている。
 顔を見て思わず和んでしまう。セツナの視線を受けたアイリーンも、彼に感化されたように微笑みを浮かべた。
「サラムが、あなたがこちらに来るって連絡を寄こしてきたんだけど。武力衝突のことなら、すぐに落ち着かせるから大丈夫よ」
「そうか……。リーンも出るのか?」
「ええ。『ニケ』の名前を使ってくるわ。セツは来ちゃだめよ?」
「わかってる」
 苦笑すると、目を瞬かせてアイリーンが首を傾げた。何しに来たのかしら、と言いたげな顔を見るだに苦笑が濃くなるセツナを冷やかして、イリシャンが口を挟んだ。
「心配だったんだって」
 にやりともせずに言うイリシャンに、アイリーンがまた首を傾げた。
「神兵の評判はそんなに悪いの?」
「じゃなくて、リーンを」
「私?」
 しばらく首を傾げて、リーンはぱっとセツナを見た。思わずたじろいでしまいそうになるほど、彼女は満面の笑みを浮かべている。
「心配してくれたの?」
「ああ。その……いらない世話とは言われたんだが」
「嬉しいわ。ここでは私の心配をしてくれるような人、いないもの」
 はにかんだように笑うアイリーンはとても愛らしい。戦いの女神にはとても見えない、セツナにとっては見慣れた姿だが、他のものにとっては違うらしい。
「聖女が乙女になったね」
 ぼそっと呟いたイリシャンをよそに、「すぐに終わらせてくるから、待っててね」と可愛らしい笑みを残して、アイリーンは馬を駆った。
 

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