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茅田砂胡著「デルフィニア戦記」より、イヴンとシャーミアンです。一押しカップル! でも多分マイナーどころ!
二次創作がとても少ないのが寂しくて仕方なかったのですが、書いてみて理解しました。むずい。

デル戦、久しぶりに読み返して、うわあああとなりました。カプとかにはまらなくても十分楽しめるシリーズです。
長いけど、長さを感じさせない、痛快な文章が癖になります>< 外伝を読んでいなかったことに気づき、さっそく密林さんで注文してきました。手元に届くのが楽しみだなあ(*´ワ`*)


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 イヴンが短気な性分である、ということに異を唱えるものはいないだろう。
 なんの因果か、今では頭の上に王冠なんぞを乗っける羽目になった幼馴染み――しかしその王冠がこの上なく似合ってもいる――を捕まえるまでもなく、是を唱える人間には事欠かない。
 けれどそれは、私欲を抑える能力がないということと同意ではない。必要であれば私的な感情を胸の奥深くに飲み込み、しかも飲み込んでいることを周りに気取らせないよう振る舞うこともできる。
 シャーミアンに関することについては、彼にとってまさに『胸の奥底に飲み込んでおくもの』だった。飲み込んでおけば、いつか消化されるものだと高をくくってもいた。
 接するほどにちらりと覗く彼女からの好意にぐらつきそうになりながらも、イヴンは持ち前のつかみ所のなさで、彼女の気持ちも、自分の気持ちさえも気づかないふりをし続けた。
 いつか彼女は自分でない誰かの元へ嫁ぐだろう。そしてそれは、5年も10年も先の話ではない。何と言ってもデルフィニアに名だたるドラ将軍の一人娘だ。仮に彼女自身が結婚に意欲を燃やすことがないにしても、周りが放って置くはずがない。
 優れた家柄に加えて、シャーミアン自身の容姿、気質にも不足はない。ドラ将軍の眼鏡にかなった婿と式を挙げる日も近いだろうと、イヴンは頭の片隅で考えていた。
 その時が来たら、自分は笑って「おめでとう」と言うだろう。
 シャーミアンもきっと、花のように笑って「ありがとうございます」と答えるだろう。
 飲み込んで、決して表に出さないように戒めた想いはそれで消えるはずだった。
 けれど現実は、なかなか自分が思い描いたとおりにはいかないものだ。
「本当に、夫婦になっちまったんだなあ……」
 カムセンの館で婚礼を上げた後、夫婦となったばかりの二人が通されたのは、何とも品のいい調度品がしつらえられた部屋だった。
 チェンバースイートルームとでもいうのだろうか。居間と寝室が一続きになった館の一室は、タウの小さな民家がまるまる入ってしまいそうなくらいに広い。
 くつろいだ姿で寝室のソファに座り、妻となったシャーミアンと共に酒肴を楽しんでいたさなかでの一言だった。
 夜着の上に薄い羽織を纏っただけという、なんとも目を楽しませてくれる出で立ちで座していた彼女は、きょとんとした後でかすかに眉をひそめた。
 二人きりで部屋に下がった直後はかちんこちんに緊張していたことを思えば好ましい反応かもしれないが、イヴンは思わず漏らした一言に内心汗を掻く。
「……後悔を、しておいでですか?」
「まさか。後悔するくらいなら最初から結婚なんかするもんかい」
 果実酒の入ったグラスを置き、目に見えてしょんぼりとする新妻の姿に慌てる。細い肩に無骨な手を置いて慰めようとしながら、ふと苦笑が浮かんだ。
 この自分が、女の一喜一憂する様に揺らされるようになるとは。
「ずっとあり得ないと思ってたんだ。それこそ、シャーミアンの考えが及ばないくらい、本当にずっと、長いことだぞ? それがあれよあれよという間にこんなことになって――あんたが俺の妻になって。自分が言葉で言い尽くせないほどの果報者だってのはわかるんだが、まだどっか、実感しきれてねえんだよなあ……」
 栗色のふわふわとした髪を、絡ませないように、傷めてしまわないように、ゆっくりと梳く。
「果報者は私の方です。それに、イヴンさまは今までそんな……その、私に特別な好意があるような素振りなんて、一度もなさらなかったのに」
 触れてくるイヴンの手を気にしつつ、シャーミアンは目を丸くする。
 対して夫は天を仰ぎ、両手を大きく広げて嘆いて見せた。
「滅多なことができるもんか! あんたはしっかりしたとこのお嬢さんなんだから、俺みたいなならず者が手を出してみろ。あっという間に袋叩きさ」
「それでは、私が貴族でなかったら、ドラ将軍の娘でなかったら、もっと早くに口説いてくださっていましたか」
「それはもう。あんたに『口説いてほしい』とお願いされるまでもなく口説いて、もっと早くにこうしてましたよ」
 イヴンが青い瞳を煌めかせて、にやりと笑う。かと思った一瞬後に、シャーミアンは逞しい男の腕に抱きすくめられていた。
 抱擁を受けるのは初めてではないが、夜着の薄さが心許ないと、動転した頭の片隅で思う。
 頬に、肩に、背中に、男の身体の感触を感じて、かっと顔が熱くなった。
「あ、あの、あの、イヴンさま」
「なんだい、奥さん」
「あの……ふ、ふつつか者、ですが……」
 こういう挨拶をする時は、きちんと礼の形をとらなくてはいけない。そう考えるシャーミアンが身じろぐと、イヴンが抱きすくめていた腕を解いた。
 膝を揃えて頭を下げようとしたところ、大きな手のひらがそっとシャーミアンの顎を掬いあげた。
 榛色と青色の視線が交差する。なにも言わず、綺麗に細められた夫の瞳を見て、言葉はいらないのだと、シャーミアン理解した。
 イヴンの唇がシャーミアンに触れる。シャーミアンの指がイヴンに触れる。
 踏み込み、踏み込まれ、互いの世界を侵していく。自分のものでない体温に暴かれながら踏み出す新たな世界は、想像以上に素晴らしいものであるのだと、熱に浮かされながら感じていた。
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無題
わー、なつかしいですねデルフィニア。皆元気かな、なんて思いましたが、元気でなさそうな人が思い浮かびません(笑)
スイ 2012/07/12(Thu)10:22:18 編集
Re:無題
デルフィニアご存じですか! わー嬉しいですv
懐かしいですよね、私が初めて読んだ時にはすでに文庫版が出そろっていたので、もっともっと前から書かれていた作品なんだなあと思うと感慨深いです。
いつまでもみんなでワイワイしてそうですよねー(笑 子どももたくましく育ってそう。続編か短編をまた読みたいです><
コメントをありがとうございましたv
【2012/07/27 00:36】
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