忍者ブログ
伯爵と妖精、オリジナルなど。コメント等ありましたらお気軽にどうぞv 対象年齢はなんとなく中学生以上となっております(´v`*)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

場面は飛びに飛び。便宜上の婚約者同士のふたりです^^
一応通し番号ふってますが、単発物としてお楽しみください(´ワ`)

あと、猫のテンプレート、とても可愛かったのですが長文を読むには向かないみたいなので変更しました。可愛かったのになあああ


+++



「ひどいね」
「……」
 リディアの成績表を見たエドガーの第一声に、彼女はぐっと言葉を詰まらせる。
「……全体的に見れば、そんなにひどくないはずよ」
「ああ、そうだね、ごめん。文系教科は文句ないよ。語学も古典学も素晴らしいね。数学もまあ、許容範囲だと思うよ。ただ、僕の担当は化学だから」
 ひどいね、ともう一度エドガーは言う。
 いっそ感心している様子に、リディアの神経は余計に逆なでされる。小さな紙にAだのSだのと印字された成績表をばっと取り返すと、びしっとエドガーの額に指を突きつけた。
「もう、なんなのよ! 突然家に来たと思ったら成績表が見たいって言って、しつこいから見せたら今度はその態度!」
「教授が来るまで相手をしてくれたっていいだろ? 婚約者なんだから」
「便宜上のでしょ!」
「そうだったかな」
 にっこりと笑うエドガーは一見柔らかい印象だけれど、リディアの仏頂面は解れない。たいていの女の子、いや、男でも見惚れる麗しい笑みを前に、胡散臭いものを見るような態度を崩さないリディアに、エドガーはくすくすと笑う。
「きみは、いいね。本当に」
「なにがよ」
「なんというか、斬新だ」
 もしかして、褒めてるつもりなのだろうか。リディアは眉をひそめて嫌な顔をする。彼の自惚れが鼻についたということもあるのだけれど。
「どうせあたしは変わり者よ」
 変な子、変わった子。ずっとそんなふうに言われてきたから、いまさら傷ついたりなんかしないけれど、リディアと妖精との関わりを知っているエドガーにすら言われるとにわかに虚しい気分になる。
 不意に影が差したと思ったら、エドガーが立ち上がり、長身をほんの少しだけ屈めてリディアを覗き込んできた。
 真っ正面から視線があって思わずたじろぐと、リディア、と甘い声が自分を呼ぶ。
「きみは自分を悪い意味で特殊に思ってるのかもしれないけど。でもねリディア、僕は、きみのそういうところを尊いと思うよ」
 エドガーは口がうまい。おまけに、女性の扱いも長けている。
 だから鵜呑みにしてはいけないと思うのに、作ったようなにっこり笑顔ではない、微かに微笑んだ優しい瞳で見つめられると、ついほだされそうになってしまう。
 いつもの強気が保てなくなりそうになったとき、男性的なのにどこか優美な手のひらがリディアの手をさっと取った。あ、と思う間もなく手の甲に唇を落とされて、彼女は顔を真っ赤にする。
 慌てて振り払い、怒鳴りつけようとしたところで、開けっ放しにして置いた応接間の扉の方から何かがぶつかる音がした。見ると、いつの間にか帰ってきた父親がずれた眼鏡を押さえて立っている。
「……ずいぶんと仲がよくなったみたいだね」
「と、父さま、誤解よ!」
 赤みが引かない顔で言ってももしかしたら説得力がないのかも知れないけれど、リディアはともかく「お帰りなさい」と言うと、疲れたように肩を落とす父親の鞄と上着を預かった。そのままエドガーの顔を見ないようにして、部屋の隅のクロークに仕舞う。
「教授、お邪魔させていただいています」
 朗らかなエドガーの挨拶の後、少し間が空く。気になってちらりとふたりの方を見ると、父親がなにやら言いあぐねたあげく、言葉を飲み込んでため息を漏らしたところだった。
「いえ……汚い家ですが、ようこそ。お待たせしたようで申し訳ありません」
「とんでもない。リディアさんから、彼女の秘密をこっそりと聞かせていただいていたところなんです」
 親密な様子を思わせる意味深な台詞に、え、と父親が狼狽える。リディアは聞かない振りをやめて、エドガーを怒鳴りつけた。
「成績表を見てただけでしょ! なんでいちいち誤解を招く言い方をするの!」
「ひどいな、本当のことを言っただけなのに」
 くすくすと笑うエドガーは、リディアだけでなく、教授の反応まで楽しんでいるような気がしてならない。
「あたしの化学の成績が悪いなんてこと、父さまはとっくに知ってるわよ」
「成績……ああ、そうだリディア、そういえば言わなければならないことがあったんだったよ」
 気を取り直した教授が、ずれた眼鏡を直してリディアを手招きした。父親の分のお茶を用意しようとしていたところを、後でいいからと断られて、リディアは向かい合ってソファに腰を下ろしたふたりから少し距離を置いたところに座る。
「化学のことなんだけどね、やはりそろそろ危ないらしい。このところCが続いたろう? 他の科目の成績で十分補えるんじゃないかということだったけれど、やはり特進クラスにいる以上、最低でもBはあってほしいそうだよ」
「……Bクラスに移るの?」
 思わず声が曇る。
 特進クラス、Aクラスというブランドに興味はないけれど、自由が利くカリキュラムと、唯一といえる友達がいるクラスから離れるのはつらい。
 けれど、勉強をサボっていたわけでもないのに化学だけはどうしても成績が悪いのだ。常識では説明できない現象を日常的に目の当たりにしているリディアにとっては、ただそこに在るものをわざわざ意味のわからない化学式に置き換えなくてはならない意味がどうしても理解できない。身が入らないから興味が湧かず、基礎の問題は教科書通りの手順で解けても、発展や研究課題はどうしてもこなせなかった。
「もうすぐ補習があるだろう? 最終日にテストをするそうだから、それの点数で決めるらしい」
「そうなの」
 猶予がない。はっきり言って、自信もない。
 リディアは消沈して、心なし項垂れた。
 BクラスはAクラスと違ってはっきりとクラス編成されており、時間割も決まっている。選択科目以外はずっと同じ人間の中で過ごさなくてはいけない。果たして特進クラスで出会ったロタのように、気兼ねなく接せられる友人ができるのだろうか。
「……リディア、僕になにか言うことはないの?」
 つらつらと考えているところに声をかけられて、リディアは首を傾げる。きょとんとしたリディアの表情を見て、エドガーは心なしか拗ねたような顔を見せた。
「僕の担当は、なに?」
「……化学でしょ? あたしが大嫌いな」
「きみが嫌いなのは教科の化学であって僕じゃないよね。それはともかく、僕が勉強を見てあげるよ」
「え……」
 反射的に突っぱねようとして、思いとどまる。けれどやはりこの男に借りを作るなんて、と思い直したところで、教授が安堵の息をついた。
「請け負ってくださいますか」
「もちろん。愛しい婚約者の頼みとあれば」
「誰が婚約者よ!」
 身を乗り出して抗議すると、襟元からシャランとネックレスがこぼれでた。シンプルなチェーンに繋がれているのは、婚約の証であるムーンストーンの指輪だ。
「あんまり説得力がないよ」
 指輪を見てにやりと笑うエドガーに、知ってるくせに、とリディアはますますけんか腰になる。
「ムーンストーンが寂しがるからつけてるの! あなたのためじゃありません!」
 なぜだかリディアの指にぴたりとはまったムーンストーンの指輪は、そのあと彼女を主と定めてしまったらしい。おまけにひどく気に入られたらしく、身体から離そうとすると『彼女』が『泣き』だしてしまうのだ。
 結局リディアはその奇妙な『泣き落とし』に負けて、エドガーとの便宜上の婚約も了承してしまった状態にある。
「リディア、落ち着きなさい。ひとりでできるものなら、お前はとっくにBでもAでも取っているだろう? いい機会じゃないか、友人の手を借りることも学びなさい」
 友人、のところに微妙に力が入っていたように聞こえたのは気のせいだろうか。
 エドガーをちらりと見ると、彼はにっこりと笑う。胡散臭い笑み。けれど彼が博学なのは、リディアも十分にわかっている。
「……ちゃんと、お礼するわ」
「水くさいね。でもじゃあ、楽しみにしているよ」
 リディアは浮かない顔をしたままだったけれど、それでも教授から頑張るんだよ、と穏やかに声をかけられると、覚悟を決めたようにしっかりと頷いた。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
嬉しいです!!
はじめまして。ギルティ・スター続編楽しみにしていました!!
夜深さんのお話の読んでてにまにまするような、幸せな気持ちになる感じが大好きで通ってました。このところ新しいお話が読めて嬉しいです。
エドガーから個人指導を受けるはめになるなんて…笑 導入だけでわくわくですが、このあとの展開が非常に楽しみですね。
あと猫のテンプレ、見るたび癒されてたので変わってしまって残念です。でも黒猫もgoodですよ~
まる 2010/06/20(Sun)15:16:53 編集
ありがとうございます^^*
コメントを頂いた傍から更新滞りまくりで申し訳ないです>< 導入部分だけでにまにましていただけたなら嬉しいです! エドガーならきっとその期待を裏切らない展開にもっていってくれると思います(笑
ほんわか猫のテンプレ可愛かったのに、私も残念です>< しばらくはクロネコさんでお付き合いくださいな(´ワ`*)
コメントをありがとうございましたv
【2010/09/13 22:42】
楽しみにしてました~
初っ端から「早くラブラブにならないかな~」と思ってしまいました(苦笑)どんな個人授業になるのか楽しみですっ!リディアだけ特別に優しい眼差しで見る・・・という最初の話大好きなんです♪リディアのペースで進んでいく二人の婚約者っぷりを見守りたいです。頑張ってください!
じゃが 2010/06/20(Sun)17:31:01 編集
ありがとうございますー^^*
一番最初にかいたあの状態に行くにはなかなか道のりが長いですが、じれじれ進んでいく二人を見て先のことを妄想するのもひとつの楽しみ方かなと思います・・・!(なんか違う
ギルティ・スター、ちゃんと書いたらなんだか長くなりそうなのでなかなか本腰を入れる気にならないのですが、じわじわ小出しにしていくお話を楽しんでいただければなあと思います(´v`)
コメントをありがとうございましたv
【2010/09/13 22:44】
やっぱり素敵
こんにちは!
久しぶりにこちらに寄らせてもらったら、ギルティースターがアップされていてすごくうれしかった!!
教師と生徒ものはずっと本にならないかなと思っていたので、本当にうれしいです。ぜひ頑張ってください。
rei 2010/06/21(Mon)19:30:58 編集
ありがとうございます><v
だんだん三ヶ月に一回更新くらいになって参りました^^; すっかり亀更新サイトですが、たまーに覗いていただいて楽しんでいただければ嬉しいなあと思います><
教師と生徒、いつか本に本にと思いながらずるずるきております。まだ本当にいつか・・・! と思っているだけなのですが、完成した暁にはまた見ていただけると嬉しいです(´ワ`*)
コメントをありがとうございましたv
【2010/09/13 22:47】
無題
そうでしたか、実はこんな感じの二人だったのですね。
すっかり甘い距離間の二人から読んでいたので、新鮮でした。
それに、ここからラブな二人になるまでの過程も楽しみになりました。
猫の背景…残念です。
でも、今の陰?のも落着きます。
ギルティ・スターというタイトルになったのですね。
では、また次回のエピソードを楽しみに♪
もじゃねこ 2010/06/21(Mon)20:11:35 編集
Re:無題
そうなんです、この二人はパロの中で一番のケンカップルだと思っております(ぐっ
エドガーが甘くなるのが先か、リディアが甘くなるのが先か、ですねー最後はあんな感じの二人に落ち着きますけども、そこまでに何があるのか、私も楽しく妄想しております^^*(形にしなさい
また今度は忘れた頃の更新になるかと思いますが、たまーにちらちらと覗いてくださると嬉しいです><
では、コメントをありがとうございましたv
【2010/09/13 22:50】
忍者ブログ [PR]