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いつぞや山崎零ちゃんに捧げた、管理人「オリジナル」シズクとレイカのお話です。
ほんのりらぶというかほのぼのらぶというか。二人が仲良くなって、平和になった後のお話。これ以上存在を忘れたままにしておくと可哀想なので、ひとまずこちらにあげておきます。

タイトルが某さん宅のあれこれに似ているとのご指摘がありましたが、引用元はむしろポ@ノグラフィティの「ミュージッ@アワー」です。
とりあえず、某さんには報告済みなのでご安心ください^^


+++


美しく磨き上げられた真っ白な石でできた回廊を、レイカはひとり中庭に向かって歩いていた。固い靴底が当たるたびに、高い音が長く尾を引いて回廊に響く。自然と背筋を伸ばしたくなるこの音は嫌いじゃないけれど、レイカはやわらかな土を踏む方が好きだ。今日はずっとこの石造りの大神殿の中で精霊たちと交流をしていたので、いい加減に外の空気が恋しくなってきたのだ。
レイカは水の国のものではない。にもかかわらず、表向きには水の国の巫女姫として大神殿に籍を置き、その能力と出自から最高級の扱いを持って迎え入れられていた。
そんな待遇を受けているものだから、下働きの人間は言うまでもなく、それなりに地位の高い巫女も神官も、ほとんどがレイカを敬遠している状態だ。神殿側の対応からして賓客扱いなのだから、無理はないのかもしれないが。しかし、かといって無視されているわけではない。彼女は目立つから、人とすれ違う時には必ずといって視線を向けられている。親しく話せる人間が少ないのは残念だけれど、目が合って笑いかければ好意的な態度で返してくれる人が多いから、別段寂しいと思うようなことも少なかった。
中庭まで来ると一気に景色が明るくなった。広々と視界が開けているここでは空気までもが軽やかに舞っているようで、レイカは思いきり息を吸い込む。
レイカのお気に入りの場所は噴水だ。中庭でひときわ大きな存在感を放つ大樹の、木漏れ日を一身に受けられる位置に据えられている。レイカは神殿と同じ白馨石(ぴゃっけいせき)で形作られた噴水の縁に腰を下ろし、のんびりと空を仰ぐのが好きだった。
回廊からは死角になる場所に腰を下ろして、髪を覆っていたヴェールを取った。黒髪がさらりと流れて、風に踊る。毛先がいくつか水面に当たり、細かな波紋を作っていった。
ふわふわと下位精霊が寄ってきて、レイカの周りにぼんやりと光る靄ができる。ここは気持ちが良いものね、と呟きながら微笑むと、回廊の方からくすくすと楽しそうな囁き声が聞こえてきた。
「……すごく、綺麗な人なのね! みんな怖いと言っていたけれど、そんなことはないんじゃないの?」
「最近はそうね、優しくなったと思うわ。前はね、人を寄せ付けなかったのよ。綺麗な顔をしてるけど、なんだか怖くて」
「あたしはお近づきになりたいと思うわ。あの綺麗な顔で笑いかけられたら、一瞬で恋に落ちちゃいそう!」
「遊びでも本気でも、やめておいた方がいいと思うわ。ぜったいぜったい、勝ち目なんてないもの」
「ええっ、なあに、恋人がいるの?」
「多分、だけどね。だって、シズクさんは……」
 シズク。思いがけず知った人の名前がでてきて、何とはなしに聞いていた会話が一気に鮮明にレイカの中に入ってきた。何の話かしらと思った時には、もう彼女たちは、声が聞こえない距離まで遠ざかっていたけれど、耳に入った情報にぱちぱちと目を瞬かせる。
 シズクの噂を聞くのは、何もこれが初めてではない。彼もレイカに劣らず目立つし、ずっと神殿に仕えている分、彼女よりも上る話題は豊富だった。けれど、残念なことにその内容は、好意的とはいえないものがほとんどで。
「……シズクは綺麗、よね」
 きっと、レイカとそう歳の変わらない少女がきらきらした声音で言った言葉を思い出し、笑みを浮かべる。
「それにすごく、優しいの」
 ひとりで頷き、ね、と精霊たちに笑いかける。当然返ってくる反応はないけれど、なんだか嬉しくなって、レイカはにっこりと笑み崩れた。



 運動をして熱くなった身体をもてあましながら、シズクは真っ白な回廊をひとり歩いていた。水浴びでもしたい気分だなと、四角く切り取られた石壁の先に見える空を仰ぐ。良い天気だし、夕暮れにはまだ時間がある。馬を借りてひとっ走り湖まで行くのも良いかもしれない。
 目を伏せて歩くのをやめてから、ひどく視界が広くなった。黙々と歩いているだけなのに、変わる景色、すれ違う人、すべてが生き生きとしていて、シズクの中に強く存在感を刻みつける。慣れるまでは少々煩かったその景色も、今では楽しむ余裕さえ出てきた。大神殿の中でさえこんなにも多くの人間がいて、多くの表情があることを、シズクはこれまで見ようともしなかったのだから。
 比較的静かだった回廊に、はしゃいだ声が聞こえてきた。目をやると、見知った神官兵が二人、浮かれた調子で話しながらこちらに向かってやってくる。
「……あんなに間近で見れるなんて、ラッキーだったな!」
「滅多に深奥の間から出ていらっしゃらないからなあ。それにしても、空恐ろしいくらい整った顔してるよな」
「馬鹿言うなよ。見ただろ? あの笑った顔! ちゃんと俺の方を見て、笑いかけてくれたんだぞ…!」
「俺たちの方、だろ! ああうん……あの笑顔は、……いいよな」
「中庭の方に行ったよな。なあ、ちょっとだけ引き返さないか」
「気持ちはわかるが、これから仕事だぞ」
「だって、滅多にないチャンスだぜ? 外にいる時はたいていあいつと一緒じゃない、か……」
 いくぶん剣呑な目つきで眺めやると、はしゃいでた男の顔が固まった。気まずげに咳払いをし、慌ただしく横をすり抜けていく。シズクはそれを不機嫌な顔で見送って、一つ溜息をついた。
 途中から何となくわかったが、彼らが噂していたのはレイカのことらしい。もしかしたら蓮姫さまや菖姫さまのことかもしれないと思ったが、外にいる時にたいていシズクと一緒にいるのはレイカだ。
「……中庭の。噴水の所、か」
 そういえばよくあそこにいるよな、と思う。レイカの笑顔なんて、シズクはもう何回も見ている。だから彼らのはしゃぎようなど、シズクにとっては取るに足らないもののはずだ。それなのに、レイカが彼らに笑いかけたというその事実が、シズクにはひどく不愉快に思えるのだった。
 心なし歩調を早めて中庭へと向かう。遮るもののない、真っ青な空の下に踏み出した感慨も何もなく、一直線に噴水へと向かった。
 シズクの瞳には、遠目にもレイカがそこにいることがわかっていた。ごく淡い光の靄が、何かを囲むようにふわふわと揺れていたから。
「レイ」
 呼びかけると、ふわりと靄が動く。噴水からあふれ出る水の影から、いつまで経っても見慣れない、美しいかんばせがひょこりと覗いた。
「シズク」
 レイカは驚いたように瞬きをした後で、彼でさえ見るのが珍しい、心底嬉しそうな、極上の笑みを浮かべた。それを前にしていつまでも不機嫌にしがみついていられるほど、シズクは強靱な精神力を持っていない。ぱちぱちと瞬きをして、声をかけたのは自分の方だというのに、どうしたんだ? と首を傾げた。
「さっきね、嬉しい話を聞いたのよ」
「どんな?」
「シズクは綺麗で、優しいって」
 レイカの隣に並んで腰を下ろし、無邪気に笑うその顔をまじまじと見下ろす。誰がそんな奇特なことを言うのか。けれどレイカがこんなに嬉しそうにしていると言うことは、確かに誰かが言ったのだろう。そして多分、それを言ったのは女性なのだろう。
「……俺もそんなような話を聞いたよ」
「本当? ほら、だから言ったでしょう? シズクはとっても綺麗だって」
「俺が聞いたのはレイの話だ」
 珍しく声を弾ませて言うレイカに苦笑して遮ると、彼女はきょとんとした顔を見せた。
 レイカの表情の変化は存外に幼い。あいつらは、笑った顔は見れてもこんな顔は見れないんだと思えば、ほんの少し溜飲が下がった思いだった。
 聞いた話というのを詳しく話そうとする素振りのないシズクに、レイカは一つ首を傾げる。
「そういえば、どうしてここにいるの?」
「え」
 どうして、と改めて聞かれると困る。むかむかする勢いのまま来てしまったのが本当のところ、だけれど。冷静になった頭でなぜむかむかしていたのかを考えてみて、幼稚な独占欲に気付かされて恥ずかしくなった。そんな恥ずかしいことを、ましてやレイカに言えるはずもなく。
「……訓練が終わったんだ」
「ええ」
「…いい天気だなと、思って」
「シズクも、ここが好き?」
 頷くと、そう、と言って綺麗に笑うレイカになんとなくいたたまれなさを感じる。しばらくまんじりとした後で、そういえば、と思い立った。
「レイ、もう務めは終わったのか?」
「ええ。今日はもう終わり」
「じゃあ、ちょっと出かけよう」
 腕を取って立ち上がらせる。隣に並ぶと、レイカは受ける印象よりもだいぶ小さい。今、いつもよりも目線が近いのは、レイカが巫女服を着ているからだ。巫女服は裾が長いので、務めの時は決まって底の高い靴を履いている。
「どこに行くの?」
「馬を走らせて湖まで。…厩舎に行ってる間に、着替えてくるか?」
「ううん、一緒に行くわ」
 何となく細腕を掴んだままになっていた手からゆるりと力を抜くと、そのまま輪郭を辿って華奢な指先に辿り着いた。緩く絡めると、レイカもそっと小さな手を預けてくる。それが嬉しくて、でも少し気恥ずかしくて、微妙に視線を逸らせたままでいると、くすくすと軽やかな笑い声が聞こえてきた。
「そういえば、シズクには恋人がいることになっているみたいよ」
「……え?」
「ね、誰のことかしらね?」
 悪戯げに見上げてくるレイカの、煌めく瞳とまともに視線がかち合う。
瞬間、上気した顔を手で隠すように俯いてしまったシズクの横で、レイカはまた嬉しそうに、幸せそうに笑うのだった。
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