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伯爵と妖精、オリジナルなど。コメント等ありましたらお気軽にどうぞv 対象年齢はなんとなく中学生以上となっております(´v`*)
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伯爵と妖精パロ、教師と生徒より。

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伯爵と妖精パロ
---教師と生徒



頭がくらくらする。
昼放課。賑やかなざわめきをほんの少し遠いところに聞きながら、リディアは保健室のベッドの上で寝返りをうった。
珍しいことに、風邪をひいてしまった。自宅の改修工事のために昨日からエドガーの邸でお世話になっているリディアには、早退しようにも帰る家がなくいので、こうして滅多に足を運ばない保健室でお世話になっているのである。
本当は帰ろうと思えば帰れるのだけれど、どちらの家へ帰るにしろ、エドガーに一言言わなくてはいけない。とても調子が悪かったけれど、こうして保健室で寝ていることですらできれば内緒にしておきたいと考えているリディアには、なかなか早退を言い出す勇気はなかった。
カーテンの向こう側で、女の子たちの他愛もない雑談が聞こえる。何とはなしに耳を傾けながら、またころんと寝返りをうったところで、いくらか女生徒の声のトーンが跳ね上がった。
「あ、先生!」
「やあ、こんなところでお喋りかい?」
てっきり、養護教諭が入ってきたかと思ったのに、聞こえてきたのは、とてもとても聞き慣れた声だった。
途端にばくばくと心臓が動き始める。いたずらが見つかってしまった子どものように、落ち着かなく視線を泳がせた。
別にリディアは何も悪いことをしていない。だというのにそんな風に罪悪感を覚えてしまうのは、リディアが体調を崩したりするとエドガーがひどく不機嫌な顔で、とても心配するのを知っているからだ。
心底から逃げ出したくなって、無駄だとはわかっていながらせめてもの抵抗と、上掛けを頭からひっかぶった。
「病人が寝ているようだから、他の場所へ行きなさい。保健の先生もいないのに、勝手に居座ったら駄目だろう」
「えー、だってここ、涼しいんだもん。教室はうるさいしさあ」
「保健室が静かなのは当たり前だよ。君たちがいるとうるさくなってしまうだろ?」
「ひっどー! そんなに騒いでないもん。ちょっと喋ってただけじゃん」
「あ、じゃあ先生も一緒に行こうよ。うちらの相手してくれたらここどいてあげる」
「僕は用事で来たんだよ。忘れ物を受け取りに来たんだから、残念だけど君たちの相手をしている暇はないんだ」
女の子たちのきらきらとした声が否応もなく耳に入る。きっと、エドガーの腕にしがみついたりもしているのだろう。容易に想像ができて、リディアは今度はその光景から逃れるようにぎゅっと体を縮こまらせた。エドガーに見つかりたくないと思っていたのに、今は行かないでと思ってしまう。
静かになったのは、授業開始の予鈴が鳴ってからだった。ほっと息をついたのも束の間、エドガーの足音がこちらに近づいてきた。
「開けるよ」
返事も待たずにカーテンが開けられて、エドガーがベッドの脇に立ったのを、リディアはシーツの下から音だけで感じていた。
「リディア、寝てるの?」
このシーツのかたまりがリディアだとエドガーは微塵も疑っていない。息を殺してじっとしたまま答えずにいると、おもむろに上掛けをはぎ取られた。
「何だ、起きてるじゃないか」
「………何す、」
文句を叫ぼうとしたが、場所を思い出して口をつぐむ。リディアの真面目な性格は、こんな時は不便だ。起き上がろうとして目眩を覚えたのもあって、またぽすんと枕に頭を落とした。髪を優しくかき上げられて、ひんやりとした大きな手のひらが額を覆う。
エドガーが顔をしかめるのは見たくなかったから、リディアはそっと視線を逸らした。
「だから家で休んでいなさいって言っただろう。ずいぶん熱いじゃないか」
「……だって」
「だってじゃない。帰るよ」
言って、有無を言わさずに抱き上げようとするエドガーのぎょっとする。ここは学校だということを、彼は忘れているのだろうか。
「やだ……やめてって、ば!」
本気で抵抗すると、思いがけない力だったのか、エドガーはあっさりリディアを離した。けれどそれに安心できたのは一瞬で、むきになったような強い力に、上掛けごと強引に抱き上げられてしまう。
「やだ、先生、」
「大人しく早退するならおろしてあげるよ」
どっちも嫌だ。
とはさすがに言えなくて黙ると、彼はリディアを伺うようにして椅子におろした。引っかかっていた上掛けで彼女をくるむようにしながら床に膝をついて、エドガーは見上げるようにリディアを見る。
「どうしたの、リディア。僕の家はそんなに嫌? でも、君の家は工事の音でうるさすぎて、ゆっくり休めないと思うんだ」
「だって、」
「ん?」
「……だって、あなたの家、静かで、すごく広くて」
熱を出して赤らんだ顔を俯けて、リディアは小さな声で言い募る。シーツにくるまれたリディアは心細げで、エドガーは、ああ、と納得した。
「さびしい?」
躊躇いながらリディアが頷くと、エドガーは「そっか」という軽い声音で、やっとやんわりとした顔で笑った。
「じゃあリディア、行こう」
「だから…っ」
「行くのは僕の部屋だよ。準備室のソファで寝てればいい。保健室よりも快適だし、何より僕がいるんだから、寂しくないだろ?」
ね、と優しく囁かれて、目をぱちぱちさせる。保健室でお喋りをしていた女の子たちに向けるのとは明らかに違う声音だ。それに気付いて、これ以上逆らえなくなってしまった。
支えてくれる腕に縋って、ゆっくりと立ち上がる。無意識にエドガーに体を寄せるリディアにエドガーが微笑んでいることなど知らず、リディアは胸にたまっていた不安を吐き出すように、ほっと息をついた。
「……そういえばエドガー、忘れ物っていうのは」
「決まってるだろ?」
にっこり笑顔で手を繋がれる。リディアは発熱とは違う理由で、ほんのり目元を赤らめた。
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