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伯爵と妖精、オリジナルなど。コメント等ありましたらお気軽にどうぞv 対象年齢はなんとなく中学生以上となっております(´v`*)
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伯爵と妖精パロ、えせ兄妹より。


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伯爵と妖精パロ
---えせ兄妹

「エドガー!」
可愛らしい呼び声につられるようにして読んでいた本から顔を上げると、つい最近“妹”になった小さな少女が自分の方に一生懸命走ってくるのが見えた。
元気で、太陽の光に当たるのが大好きなリディアがエドガーの元へ嬉しそうに走ってくる時は、たいていドレスの裾は汚れ、手には綺麗な花や木の実を持っているのだが、今日はなんだか様子が違う。
庭に置いたロッキングチェアに寝そべっていたエドガーの元へ、にこにこしながらやってきた彼女のドレスには小さなエプロンがつけられ、手には少々不格好ながらも、香ばしい匂いを漂わせているクッキーがのせられた皿を持っていた。
「エドガー、見て、あたしが作ったの!」
ずい、と満面の笑顔で差し出されたクッキーは、つまり「食べてみて」ということなのだろう。まだできたばかりの“家族”が彼にくれる温もりに完全に慣れられないエドガーだが、この笑顔を曇らせるのは忍びないと思う。だから唇の端を持ち上げて、生来の穏やかな声音で彼女に応じる。
「リディアが作ったの? すごいな、よくできてる。もらっていいの?」
「うん!」
一つ手に取り、口に運ぶ。さくさくとした食感を味わいながら、エドガーは傍らで目をきらきらさせているリディアをちらりと見た。
彼女はエドガーによく懐いている。そして純粋に、率直に、その好意を彼に与えてくれる。公爵家の嫡男であるエドガーには今まで触れる機会がなかった綺麗な心。それを映したようにきらきら光る金緑の瞳。じっと見つめていると、わけもなく泣きたくなってしまいそうなリディアの瞳から目を逸らさないまま、エドガーは柔らかく笑った。
「おいしい。焼きたてをわざわざ持ってきてくれたんだね」
ありがとう、と、最近覚えた仕草で彼女の頭を撫でると、リディアは頬を紅潮させて、心底嬉しそうに笑った。つられるようにして、エドガーも笑う。作り物でない、無邪気な顔。もっと食べてと皿を差し出しながら、リディアはその笑顔をにこにこしながら見つめるのだった。



「エドガー、ちょっといいかしら?」
“家族”の義務を果たすかのように律儀に就寝の挨拶をしに来たエドガーを、アウローラはなにげない仕草で呼び止めた。首を傾げるエドガーに、こっちへいらっしゃいなと、自分が座っているソファの横を示す。エドガーは座らずに、指さされたソファの前に立った。
アウローラはそのことには触れず、ちょっと困ったような顔をして首を傾げた。
「昼間、リディアがあなたにクッキーを届けに行ったと思うんだけど」
「ええ、いただきました」
「ごめんなさいね、あの………辛かったでしょ?」
ばつが悪そうにエドガーを見上げてくるアウローラが、悪戯が見つかった時のリディアの様子に何となく似ていて、親子なんだなあとふと思う。思ったら、頬が少し緩まった。
「おいしかったですよ」
「本当に、ごめんなさい! ちゃんと見てたつもりなんだけど、あの子、砂糖と塩を間違えちゃって……気付いたの、あなたに持って行った後だったのよ。にこにこしながら帰ってきたから何も言わなかったんだけど。お皿の中身、あなたが全部食べてくれたのね?」
「一生懸命に作って、わざわざ焼きたてを持ってきてくれましたから」
ソファに座ったままのアウローラは、ほんの少し高い位置にあるエドガーの瞳をじっと見つめる。色が違っても、やはり親子だけあってそっくりだなと思ってしまうと、また頬が緩んで、穏やかな顔つきになる。アウローラはそれを見て、目を細めて微笑むと、おもむろに立ち上がってエドガーを抱きしめた。
「嬉しいわ。優しい子ね、ありがとう」
突然のことに瞬きを繰り返すエドガーの頬にキスをして、軽やかな動作で手を離す。
「お休みなさい、エドガー。良い夢を」
「……お休みなさい」
今度はちゃんと成功作を食べさせてあげるから、という声を背後に聞きながら、エドガーはこの家に漂う優しすぎる空気に戸惑い、不思議な高揚感と、泣きたくなるような胸苦しさを感じていた。
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