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伯爵と妖精、オリジナルなど。コメント等ありましたらお気軽にどうぞv 対象年齢はなんとなく中学生以上となっております(´v`*)
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管理人のオリジナル「花守」の灰(カイ)とレイカのお話です。花守本編の前段階のお話っぽく。灰とレイカの子供時代です。
オリジ話を書くととたんに甘さが皆無になるこの不思議^^ なんだか続きそうな予感ですが、とりあえずは灰とレイカの邂逅までをお届けします><

なんかこう……世俗と隔たれた小さな国の中でのお話な感じです。精霊信仰が国の政をする上での軸で、実際に精霊と共存しているファンタジーです。
国で一番偉いのが大巫女ですが、実権を握るのは神殿内の官僚たち。大巫女とその夫の組み合わせで国をまとめるのがスタンダードです(大巫女は覡でも可)
世襲制ではないですが、「力(神通力っぽいもの)」が強い人が権力を握るので、そして「力」が強い血筋というものがあるので、結局は世襲っぽいです。
そんな設定がうにゃうにゃありつつ、てきとうに肩の力を抜いてお楽しみください^^


+++

一つの”黒”は吉兆
全てを覆い安らぎへと導き
真っ暗闇の内から夜明けを誘う温もりの色彩

二つの”黒”は凶兆
全てを覆い欠片すらも遺さず
国に黄昏を、永遠の終末をもたらす色彩




 大巫女の胎から二人目の”黒の子”が産まれた時、神殿は大変な騒ぎになったという。神殿の高官たちは速やかに箝口令を敷き、産褥に立ち会った侍女たちは強制的に口封じのまじないをかけられた。
老いて白くなった髪をつきあわせながら、高官たちは考える。”黒の子”の話はいまや神話だ。同じ世代に二人も”黒の子”が現れるなど、彼らの記憶の中には、そして彼らを数世代遡っても、かつて前例がなかったことなのだ。
しかしそれでも二人目の”黒の子”の存在は彼らに本能的な恐怖を与えた。一人目の”黒の子”の、日に日に濃くなっていく尋常ならざる空気に当てられている彼らだから、なおさらに。
「儀式をしよう」
「女神の供物に」
「高貴なる贄に」
 ぽつり、ぽつり、と、控えめに、けれど断定的な言葉が落とされた。
しかし供物を捧げるには時期が。次の儀式はまだずいぶんと先の。
ざわりざわりと、次第に高ぶっていく感情と一緒に大きく揺らされる空気を、カツーンと高い音が遮った。
 金属を石に打ち付けた音だ。高官たちが振り向くと、部屋に集まったものの中で一番の権威を持つ、壮年の男が静かな瞳で彼らを見据えていた。
 真っ白い頭ばかりの中で、短く切りそろえられた濃い褐色の髪を持つ男がすっと席を立つ。彼は大巫女の夫で、二人の”黒の子”の父親だった。
「貴公らは、銀の女神がもたらされた神話の詳細をご存じか」
 静かな問いかけは、静まりかえった部屋の中によく響く。壁面に使われている百馨石が白く煌めき、明かりのない部屋を薄ぼんやりと照らしていた。
「終末をもたらす”黒の子”は、身体に印が浮き上がるという」
 さわり、と空気が揺れた。白髪の高官たちは目を見交わし、赤子に印がなかったことを確かめ合った。
「それは、精霊の御印のことですかな」
 あごひげをたっぷり蓄えたひとりの老人が、どこか不遜な声音を発する。
「いかにも」
 その老人は、一人目の”黒の子”には何も印が現れなかったということは、というもったいぶった前置きをした後、ちらりと男を睥睨した。
「であれば、印が現れるのは巫女姫が七の御歳になられた時。今はなくとも、浮き上がってくるに違いないでしょう」
 重々しい言葉に、周りがざわめく。
「ではやはり、そうなる前に」
 ひとりの男がふさふさとした白髪を揺らしながら身を乗り出した時、男が静かに口を開いた。
「貴公らは」
ふたたびざわめきだした老人たちを、静かな、けれどよく通る声で遮った。声音にも瞳にも特別な感情は伺えない。けれど冷厳なその雰囲気に、高官たちは口をつぐむ。
「自らの妄想じみた不安を解消する、まさにそれだけのために、今は廃れた供物の儀式を復活させてまで、いとけない幼子の命を奪うおつもりか」
 静かな怒りが垣間見えた。父親だから、我が子だから、そういった情を感じさせない、ただただ純粋な怒りだ。場は静まりかえり、興奮に煽られ揺らめいていた空気が沈殿する。
男はぐるりと視線を一巡させると、カツーンと高い音を立ててレイピアの鞘を石床についた。それを合図に、決定がくだされる。
「赤子は神殿の奥へ。選りすぐりの侍女をつけ、七の時を迎えるまで丁重に育てる。また、”黒の子”同士が顔を合わせることのないよう、厳重に注意しろ」
 事実上の隔離宣言に、高官たちはほっと息をついた。男はその様子を、かすかに苦みを混ぜた視線で見据え、それを彼らに悟られないうちにくるりと踵を返して部屋を後にした。







 十になる誕生日を迎えた日、珍しいことに、神殿の長である父親に呼ばれた。公務として呼ばれるのはこれが初めてだけれど、漆黒の髪と漆黒の瞳を持つその少年は、取り立てて臆することなく執務室へと向かう。後ろからぞろぞろと教育係と称する侍女や教師が付いてきているが、彼はそれを空気のようにあしらい、自分ひとりだけを執務室の中に滑り込ませると、さっさと扉を閉じた。
「とうさん」
「カイ」
 少年が入ってきたのを見て、褐色の髪の男も執務室にいた何人かを追い出した。残ったのは男と少年だけだ。部屋の中に二人だけになると、少年の顔はとたんに年相応のものになり、男は父親の顔になった。
「一応、公務で呼んだんだけどな。ひとりで来たのか?」
「俺はいつでもひとりだよ。いつも後ろにいるのはただの空気」
 そんな可愛いものでもないけど、と呟く少年の髪を、男は近寄ってぐしゃぐしゃと撫でる。
「どいつもこいつも、俺を自分側に懐柔しようと躍起だよ。とうさん、”黒”っていうのはそんなに特別なものなのか?」
「お前が特別に強い力を持っているのは確かだな」
 印は? と聞く男に、ないよ、と少年は腕を掲げて見せた。ぽんぽんと頭を撫でられながら、少年は背の高い父親を仰ぐ。大人びていても、態度が尊大でも、背は年相応にまだまだ低い。
「じゃあ、もうひとりは?」
「もうひとり?」
「妹」
 真っ黒い瞳が、じいっと父親を見上げる。男はちょっとそれを眺めて、うん、と頷いた。「強いよ」
「俺より?」
「それはわからない」
 ふうん、と呟く少年に笑って、男は彼をソファに座らせた。すっとした香りのするお茶を淹れて、少年の前に置いた。
「でも、お前より不安定なんだ。いろいろと」
「ふうん?」
「だから、もう会いに行っちゃ駄目だぞ」
 お茶に口をつけていた少年が、ぐっとつまった。一瞬止まって、何事もなかったようにまたカップを傾けたけれど、慌てたように口を離す。
「熱いだろ」
「熱いよ……なんでばれたの。かあさんから?」
 “黒の子”を二人も産んだことで、気が違ってしまった母親の名を平気で出す息子に、男は笑って首を振った。今では誰もが敬遠するようになった大巫女との交流を、精霊を介してこの少年はこともなげにやってのけてみせる。
「いや、レイカから」
 レイカ、と少年が響きを舌で転がす。噛みしめるように。彼は妹の名すら知らされていなかったのだ。無意識のその動作を、男は愛おしむような憐れむような、少し複雑な表情で見た。
「でも、会いに行ったけど、会ってはないよ。見つけられなかった。レイカはなんで気づいたんだろ」
「見つけられなかった?」
 精霊たちには口止めしたのに、と呟く少年を遮って、男が怪訝な顔をした。きょとんと、少年が顔を上げる。
「侍女と、変な信者みたいなのしかいなかった。花に埋もれた像をみんなで囲んでさ」
「ああ……そうか。見つけられなかったか」
 怪訝な顔をさらっと消して、男はにっこりと、それは良かったと頷いた。少年は違和感を覚えながらも、それが何に対する違和感なのかがわからず眉をひそめる。
「とにかく、もう会いに行っちゃ駄目だぞ。お前の力が刺激になって、あの子に印が現れでもしたら大変だ」
「まだ五歳だろ?」
「七歳で現れるっていうのは一般的な精霊の印のことだ。”黒の子”の印は、ちょっと予測がつかない」
 わかったな、という、男の珍しく厳しい表情に、少年は渋々ながらも頷いた。そうしてふと、顔を上げる。
「レイカは、どういう言霊を持つの」
「花だよ。華かな? 麗しの華。可愛いだろう、女の子らしくて」
「派手だね」
「母さんがつけたんだよ」
「俺は灰なのに。これは男らしいの?」
「……母さんがつけたからなあ」
 苦笑する男に、少年は笑う。ある程度の意味は推し量れても、母親がどういう想いを込めて言霊をくれたか、いまいち理解ができない。それでも不満はないから、少年は上機嫌に紡いだ。
「光だと思った」
「何が?」
「レイ」
 強く差し込む真っ直ぐな光。
詩人だな、と笑う父親に、少年は屈託なく返す。
レイカ。レイ。音の響きが気に入って、舌の上で転がす。やっぱりちらりとだけでも姿を見たいと、そう思う。
「話って、これだけ?」
「無断で抜け出したことへの説教もかねて。息抜きするなら、もう見つかるなよ」
「わかった。あと、とうさん」
「ん?」
 ふーっとお茶を冷ましながら、少年はちらりと黒目を向ける。男はそれを受けて、ほんの少し目を細めた。
「さっきここにいた、ひげの男。アレは駄目だよ。近いうちに堕ちる」
「……そうか」
 ふう、とため息をつく男から、少年はそっと目を逸らす。知らせておかなくてはいけないことだけれど、知らせたことで父親が落ち込むのは、なんとなく嫌なものだ。
「最近多いな。でも、それもそうか。お前たちが産まれてくるくらいだからな」
「”黒の子”のせい?」
「違うよ。”黒の子”が産まれてくるから国に異変が起きるんじゃない。異変が起きるから、”黒の子”が産まれてくるんだ」
 漆黒の瞳で父親を見る。真っ直ぐ見返してくれる父親を。少年の瞳を真っ向から見据えられる人間を、彼は父親と母親以外に知らない。
「支え護るか、打ち壊すか。お前たちは、いつか選択をしなくちゃいけないかもしれない」
「護りたいものも壊したいものも、今のところ特にないんだけど」
「それは結構なことだ」
 父親は大らかに笑い、ぐしゃぐしゃと少年の髪をかき回す。
 王者の風格を持つ少年は、けれどまだ少年だったから、温かな手のひらに守られて、ぬくぬくと笑い、お茶の香りを楽しんだ。





 夜陰に紛れて、少年は寝床を抜け出した。目指す先は広大な敷地の中でも特に奥まったところにある神殿。もっと言うと、そこで暮らしているはずの少年の妹のもとだ。
 前回抜け出したのは明け方だったから、高い木の上に上っていた少年は朝日に照らされて、それで見つかってしまったのだろう。顔を見たことのない少女を見つけるには明るい中での方がいいだろうと考えた結果だったのだけれど、考えてみればこっそり動くには明るい中よりも暗い中の方がいいに決まっている。
 地味な色の布を侍女がするように被った少年は、今度は明るい中遠くからではなく、暗い中近くで少女の姿を見ようと考えていた。
 とは言っても、父親との約束があるから、顔の造作がわかるほど近くには行けない。けれど、少年はただ、美しい響きの名前を持つ、自分と同じ色彩を纏った妹が本当にいるのかどうかを自分の目で確かめたいだけだから、それでも構わないと思っていた。
 ちらちらと目の前を横切る下位の精霊たちの光を頼りに、辺りをうかがいながら身軽な動きで進んでいく。前回登った木の下まで来て、硝子張りにされた中庭への入り口を見やった。
五歳の少女なのだから、きっともう眠っている。だから、まずはそれらしい部屋を見つけなくてはいけない。部屋は中庭を囲むようにぐるりとしつらえられている。どのあたりの部屋が一番間取りが広いかな、と考えながら、これまで以上に慎重に足を進めていく。
 と、夜にしては中庭が明るいのに気づいた。ぐるりと周りを囲っている百馨石が月光を跳ね返しているのかと思ったけれど、違う。少年はあまり持ち合わせていない好奇心を発揮して、どきどきしながら、そっと中庭を覗いた。
 覗いて、首を傾げる。光っているのは下位精霊だ。精霊自体はどこにでもいるから珍しくも何ともないけれど、中庭がぼんやりと明るくなるほど、なぜこんなに集まっているのだろう。
 少年はあたりを見回して、人の気配がないことを確認すると、ゆっくりと光の中心に近づいていった。近づいて気づく。中心にあるのは、信者たちが取り囲んでいた像だ。白い布が被せられ、さらにその上を白い花が彩っているので、なんの形をしているのかはよくわからないけれど。
「……何か、特別な像なのかな」
 下位精霊の光が、像を飾っている真っ白な花にちらちらと反射する。巫女姫のための神殿だからか、少年が寝起きしているところよりも、どうにも雰囲気が可愛らしい。
 自分には似合わないな、となんとなく気恥ずかしくなりながら、なにげなく白い花をひとつ手に取った。甘い蜜の香りがする。母親が好きそうだ、と、そんなことを思った時、風もないのにはらはらと白い花が足下に落ちてきた。
 軽く目を瞠って、少年はそれから改めて大きく見開いた。見下ろした先で、彫像が白い目蓋を開き、真っ黒な瞳でこちらを見ていた。
 一拍おいて、白い布もはらりと落ちる。その下から、光に照らされて美しい銀色を帯びた艶やかな黒髪が現れた。
 長い黒髪、白い肌、真っ黒な瞳。こうして動いたという事実があったにも関わらず、間近で見る少女の造作は怖いほど整っており、無表情に自分を見つめてくる少女はまるで人形のようだった。
レイカ。麗しの華。けれど、まるで色がない。驚いたのと、魅入ったので、少年はしばらく呆然とした面持ちで少女と見つめ合っていた。
「………セイレイ?」
 小さく小さく、少女が呟く。幼い声は存外に人間くさくて、少年は少し肩の力を抜いた。
「俺が、精霊?」
「セイレイ? なら、しゃべってもいい? いいのよね?」
 少年が目を瞬かせている間に、少女はもぞもぞと動き、白い花と白い布を身体の上からはらはらと零した。そうして立ち上がろうとして、べとっと転ぶ。
「………おい」
「あは、いいにおい」
 ふふ、と笑う少女はまるで無邪気だ。倒れ込んで、寝ころんだままで、少年を見上げた。
「ねえ、あなたの名前は? はじめまして、でしょう? わたしは、レイカ」
 少年は戸惑いながら、少女の傍らに膝をついた。花がいくつか潰されて、ふわりと甘い香りが上る。
「なんで俺を精霊だと思う?」
「だって、わたしを見てるもの」
 少年はゆっくりと瞬きをする。無邪気に微笑みながらも、どこか焦点の合っていない少女の瞳を、その奥に目を凝らすようにじっと見つめた。少女は少年を見ている。けれど見ていないようにも思える。この感覚には、覚えがある。
「セイレイはわたしを見るのよ。ドウブツも。でも、ニンゲンは見ないの。それに、ニンゲンはとても汚い。汚いのよ。なんでニンゲンは、からだの真ん中に、あんな汚い、重いものを抱えているのかしら」
 歌うように紡がれる言葉。無邪気な微笑み。目の前にあるものよりも、ほんの少しずれたところにあるものを見る瞳。
 気を違えた母親と、まるで同じ。
「……俺は、汚くない?」
「きれいよ。すごく、きれい。それにね、それに……あのひとに似てる。大人の男の人の姿をした、背の高い。トウサマというの。知ってる?」
「父さま?」
「そう、トウサマ。知ってる?」
 うん、と頷く。少年は混乱したまま、けれど嬉しそうに笑う少女の方に、そっと手を伸ばした。
 小さな頭をそっと撫でる。触れてみれば温かくて、ただただ愛しい命がそこにあるのだと、そう思えた。
「俺はね、兄さま、だよ」
「ニイサマ?」
「そう。よろしく、レイ」
 頭を撫でながら、瞳を覗き込むようにして笑いかけると、少女はぱちぱちと瞬きをした。視線が合う。焦点が合う。少女は目を細めて、花が咲き綻ぶように、にっこりと満面の笑みを浮かべた。
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