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叶わない願いごと五題

05.一生、大人になりたくない。
---空色勾玉(「こい」設定)/大王(稚羽矢)+王子

拍手ログです。
狭也がいなくなって、いろいろ歪んでる状況を書きたかったんじゃないかな!(何


+++


王子、と呼ばれて振り向く。美しすぎる美貌を備えた父王が、やんわりと手を広げて自分を呼んでいた。
まだ生まれて二桁の歳も過ごしていない王子は、乳母の手を離し、覚束ない足取りで父王の元へと向かった。ゆっくりと歩みを進めていた父の足に体当たりをするように抱きつき、そのまま大きな手のひらが自分を抱き上げるまでじっと待つ。
「重くなったな」
父王が零す微笑みに、どこか違和感を覚えることに、王子は最近になってうすうす気付いていた。
彼の人が零す笑みには、何かが足りなかった。
きゅっと肩にしがみつき、頭をことんと落とす。冷たい瞳をした父王が、こんな時はほんの少しだけ温度を取り戻すことを、王子は知らず知らずのうちに悟っていた。
「大王」
「今宵は王子と共に眠る」
「しかし、あの、」
「姫君には、気にせずゆるりとくつろぐよう伝えてくれ」
最近父王のもとには、たくさんの女性が訪れるようになっていた。豪族たちが代わる代わる王子に自分の娘を紹介しに来ていたのと何か関係があるのだろう。
不思議なのは、豪族たちがそろいもそろって母親の話題を出すことだった。王子の母は女神の元へ旅立ち安らかな眠りについているという。それなのに彼らは、自分の娘をさしてきっとよい母にもなりますなどというのだ。
またそういう女性が来たのだとわかった王子は、舌足らずな口調で父王を呼んだ。
「ちちうえ」
「うん?」
「さや、が、きたの?」
「…いいや」
笑みが翳り、やんわりと首を横に振る父王を前に、王子も悲しくなって俯いた。
「…大丈夫だよ、狭也は必ず帰ってくる。今度こそ、抱きしめてもらえるよ」
ぽんぽんと背中を撫でられながら、王子はうんと頷いた。
王子を抱きしめてくれるのは父王と、それからカラスの鳥彦王。ごくたまに、乳母も抱きしめてくれるし、科戸王や開都王は頭を撫でてくれたりする。
けれど「さや」に抱きしめられるのは、何か特別のことのような気がしていた。父王があまりにも大切そうにその名を呟くからだろうか。
その父王が誰かに抱きしめられているところは、そういえば見たことがない。気になって、王子は自分の顔の横にたれている角髪をくいくいとひっぱった。
「さやは、ちちうえも、だっこ、するの?」
ぱちりと父王が瞬きをする。
「どうかな。してもらえると嬉しいけれど」
王子を抱きしめてくれる人はいるのに、父王を抱きしめてくれる人はいない。その事実に、王子は小さな胸に衝撃を覚えた。
なぜだろうと思う。王子はまだ小さくて、父王はもう大きいからだろうか。だとしたら、王子も大きくなってしまえば、抱きしめてもらえなくなってしまうのか。
「はやく、さやにあいたい」
「そうだな、わたしも逢いたい」
父王の腕に抱かれながら、「さや」に逢うまでは一生大人になりたくないと王子は強く強く思った。

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