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伯爵と妖精、オリジナルなど。コメント等ありましたらお気軽にどうぞv 対象年齢はなんとなく中学生以上となっております(´v`*)
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伯爵と妖精パロのえせ兄妹です^^
本編終了後の、婚約者時代の二人。



+++


「兄さまの声、きれいね」
ぽつぽつと会話を交わすようになった頃、リディアがふとそんなことを言い出した。
そうかな、と首を傾げながら、発音のことかなとちらりと思った。
カールトン一家は上流英語にとても近い発音で喋るけれど、やはりスコットランド訛りが強い場所で暮らしているからか、時々濁る。
町の人々の言葉は大なり小なり訛りが入っているから、エドガーのような発音は、リディアには珍しいのかもしれない。
その言葉はその場限りのもので、なんとなく流れていったけれど、それからリディアはちょくちょくエドガーの元に本を持ってくるようになった。
他愛のない童話や、たまにはリディアには意味がわからないのではないかと思われる詩集などを腕に抱えてくる。そうして彼女は、エドガーに読んで、とせがむのだ。
断る理由はないし、リディアがこんなふうに甘えるのは珍しいのだとアウローラに聞いていたから、エドガーはいつも笑って本を受け取った。
リビングのソファに並んで腰掛けて、エドガーの膝の上に開かれた本をリディアが覗き込む形で読書の時間は始まる。
けれどそんなお行儀の良い格好をしているのは最初の数分だけで、しばらくするとリディアはエドガーの腕にもたれかかってくる。
さらにしばらくすると、すやすやと寝息を立て始める。
今日も、腕に感じる体温が高くなってきたな、と思ってすぐに、リディアの安らかな寝息が聞こえてきた。
読み聞かせをしていると言うよりも、子守歌を歌ってるみたいだなと思いながら、エドガーは本を閉じて脇に置いた。
腕からずり落ちてしまいそうなリディアの重心をそろそろと動かして、自分の膝に頭が乗るように体勢を変えさせる。
リディアの頭はへたな毛布よりも暖かくて気持ちいい。膝の上にリディアを乗せて、ソファに背を沈ませて、エドガーも彼女の眠気につられるようにしてあくびをかみ殺した。
もうすぐお茶の時間だから、きっとアウローラが起こしてくれるだろう。
そんなことを考えながら、エドガーものんびりとした気分のまま目蓋をおろしたのだった。



「……ていうことが、昔よくあったよね」
「あ、あれはねエドガー。目を閉じながら聞いてたのよ。ちゃんと最後まで聞いてから寝てたの!」
ほんとかな、と笑うエドガーに、リディアはちょっと拗ねたような顔をした。
エドガーとリディアは、ロンドンのカールトン宅に来ていた。久しぶりに教授に会うために来たのだけれど、当の教授は急な仕事が入ったらしく、顔見せもそこそこに慌ただしく出て行ってしまっている。
せっかくだから、とくつろいでいると、大きさといい雰囲気といい、とてもスコットランドで過ごしたあの家とそっくりで。
自然に二人は思い出話に花を咲かせることになったのだ。
「それにしても、どこに行っても教授は教授だね。すごい数の蔵書だ。また借りに来ようかな」
膝の上に置いた本は、幼い頃にリディアに読み聞かせをせがまれたものとは比べものにならないほど分厚い。
向かい側に座っていたリディアがとことこと移動してきて、エドガーの横に座ってそれを覗き込んだ。
「エドガーも本が好きよね。小さい時だって、なんだかよくわからない本をいつも読んでたし」
あ、でもこれは読んだことがあるわ、とリディアが言ったのは、カールトン教授が書いた本だ。宝石と民間伝承の関連を取りあげた、科学的なのにどこか夢のある本。
「妖精が出てくるの。母さまと一緒に書いてたのよ。難しい言葉がいっぱい出てくるけど、父さまと母さまが書いた本だからどうしても読みたくって」
「勉強した?」
「頑張ったわ」
頷くリディアは誇らしげで、可愛らしくて微笑ましい。
本に意識が向いているからか、エドガーと恋人同士になった後は距離が近すぎると身体を強ばらせてしまうようになったリディアが、いつになく自分からくっついてきてくれている。
腕に温もりを感じながら、エドガーはそっとリディアを伺う。
「読んであげようか」
「本当? じゃあね、ええと……ここの章がいいわ」
「水入り瑪瑙?」
「ええ」
ページを開いてゆったりとソファに背を落ち着けると、リディアが腕に寄り添ってきた。
期待に満ちた視線は真っ直ぐに本へと向けられているのはわかっているけれど、香る甘い匂いに必要以上に彼女を構いたくなってしまう。
ちらりと視線をやると、勘違いした彼女はむ、と頬を膨らませた。
「寝たりなんかしないわ」
「本当かな」
くすくすと笑って、音読を始める。柔らかな音が連なる言葉遣いはカールトン教授というよりもアウローラを思い起こさせた。
妖精のくだりだから、彼女がそらんじたのを教授が書き留めたのだろうか。
エドガーはゆったりとしたテンポで読み進める。
そうこうしているうちに、腕に感じる重みが強くなって、思わず笑みを零してしまった。
区切りのいいところまで読み切って、リディアにそっと手を伸ばす。髪を撫でると、けれど予想に反してすぐに目蓋は開かれた。
「……寝てないったら」
「眠そうだけど」
うん、と頷くリディアはぼんやりしている。幼い頃のようにエドガーの肩に額をすり寄せて、完全にもたれかかってきた。
「今日は、いつになく無防備だね」
くすくすと笑いながら甘く囁くと、リディアの耳朶がゆるゆると朱に染まる。けれど彼女は身体を離そうとせずに、やんわりと笑って見せた。
「ここは父さまの家だもの。エドガー、父さまの前じゃ、悪いことはできないでしょ?」
「君にキスするのは、悪いこと?」
「未婚の女性に対して、節度を重んじないのは悪いことだわ」
安心しきったように身体を預けてくるリディアは、節度を守っているといえるのだろうか。
けれどそんな野暮なことは口に出さずに、エドガーはそっと笑う。首を傾げて額にキスを落とし、穏やかな気分のままで本の続きを読み始めた。
終わる頃には、リディアはすっかり寝息を立てていた。幼い頃のように自分の膝を枕に貸して、ついでに上着を脱いでリディアにかける。
教授はディナーの時間までには帰るといっていたから、あと2時間もすれば帰ってくるだろう。
この状態を目に入れたらなんて言うだろうか。微笑ましく思うのか、年頃の男女がすることではないと諫めるのか。
想像しながら笑みを零して、エドガーもそっと目蓋をおろす。
眠りにはほど遠いけれど、せっかくリディアが安心しているのだから、思う存分その温もりを堪能しようと、そう思った。
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