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猫部屋をたたまなくてはーと言っているにも関わらずちびにゃんこ話を投下します。
邸に拾われてきた初期のお話。もう少し意思疎通がちぐはぐしてる感じでも楽しそうですが、そこはエドガーマジックと言うことで^^



+++



子猫が邸にやってきてから、2週間が経とうとしていた。
来た直後の風呂騒動が原因なのか、はたまたそれ以前のことが原因なのかはわからないけれど、彼女はやたらと人見知りをする。
ご飯を食べさせようと、もしくは着替えをさせようとメイドが部屋の中へ入っていくたびに、小さな足で一生懸命柔らかな絨毯を蹴り、ささっとソファの後ろへ隠れてしまうのだ。
ご飯は、行儀に目をつむれば子どもでもひとりで食べられる、簡単なものを用意しているからいいけれど、着替えは生憎そうもいかない。
幼いからか元々の性質なのかはわからないけれど、リディアは不器用である。前に付いているボタンですら留められないのに、後ろのボタンなんてどうやってとめられるというのだろう。
しかも、彼女自身には寝間着とそうでない普段着との区別をつける必要性がまったくないらしい。着替えなくちゃ駄目だよといくら言葉で諭しても、首を傾げるばかりなのだ。
結局、朝と夜にエドガーが半ば強制的に彼女を着替えさせているのだけれど、昼のドレスは窮屈なのか、夜の着替えの時の方がリディアは嬉しそうにしている気がする。
言葉が話せないので、なんとなくしかわからないのだけれど。
「はい、終わり」
「みう」
腰のリボンをきゅっと結んでやると、リディアはぴょこんと尻尾の先を跳ねさせた。
じっとしてて、というと、なぜだか耳も尻尾もしゅんと大人しくなる様は、何度見ても面白い。
くすりと笑うと、リディアがきょとんとした瞳で見上げてきた。微笑んで、頭を撫でる。何度か撫でてやると、じっとエドガーを見上げていた瞳が少し和んだ。
そのおとなしさに、エドガーは少し首を傾げる。
たまに、出会ったばかりの時の方が元気だったのではないだろうかと思う。少しずつ覇気が失われていっているかのような。
「リディア、あったかいミルクを持ってこようか。ああもちろん、少し冷ましてからね。ちょっと蜂蜜を垂らして、甘いミルクにしよう」
ミルク、という言葉に、ぴくっと耳が動く。期待に目を瞬かせて、どんどん頬が上気していく。
「蜂蜜を食べるのは初めてだっけ? 期待していいよ、リディア。僕も、小さい頃は瓶の底までさらって食べるのが大好きだったんだ」
みうみう、とリディアが身体を揺らしながら歌うように鳴きだした。きらきらした瞳は、エドガーが呼んだメイドが部屋の扉をノックした時に最高潮になる。
いつもは扉の向こう側に人の気配がしただけで警戒する様子を見せるのに、こういうところが現金で可愛い。
「みう!」
トレーに乗せられたミルクのカップと蜂蜜の瓶が低いテーブルの上に置かれると、リディアは隠れることもせずに身を乗り出して、全身を使ってうきうきしているのを表現する。
ゆらゆらと尻尾を揺らして、そわそわとカップと瓶と、それからエドガーとを伺うリディアに、先ほど感じた不安の影はない。
気のせいだったかな、と、エドガーはにこりとリディアに笑いかける。
「虫歯になるといけないから、あんまり多くは食べさせてあげられないけど」
小さなティースプーンに半分ほど、とろりとした琥珀色の蜂蜜を乗せて、リディアに差し出す。あーん、と言うと、あーん、と口を開ける、その隙間から見えた舌に蜂蜜をぽとりと落とした。
む! とスプーンをくわえたままの不明瞭な発音でリディアが鳴き、みるみるうちに瞳が輝き出す。
口の中でもごもごと一生懸命に蜂蜜を舐め取るのをしばらく眺めていたが、いっこうにスプーンを口から出す気配がないのに苦笑する。
ためしにちょっと引っ張ってみたら、抗議するように大きな目で睨み上げてきた。
「あんまり舐めてると、舌が金物臭くなるよ?」
金物という表現がわからなかったのか、リディアがきょとんと目を瞬かせた。もう蜂蜜の味はしないだろ? と改めて諭すと、彼女はしぶしぶスプーンを離す。
「みう、みうー、みうう」
「駄目だよリディア、今日はこれだけ」
「みう……みううー」
エドガーの言うことは基本的に素直に聞くリディアが、珍しく食い下がる。控えめに、けれど諦めきれないようにエドガーを伺うリディアに、そんなに気に入ったのか、と頬を緩ませた。
小さな手のひらでエドガーの服の裾を握る彼女が可愛らしい。ほだされそうになりながら、エドガーは傍目にわかりやすく、うーん、と考え込む仕種をした。
「……もう一匙あげてもいいけど、リディア、そうしたらミルクに入れる分はなしだよ?」
「み」
リディアの耳と、そして尻尾がぴっと立った。そのままゆらゆら揺れて、ついでに身体ごとゆらゆら揺れて、最後には視線も泳ぎ出す。
柔らかい手触りの髪を撫でて、どっちにする? と優しく聞くと、ゆらゆら揺れていた身体がぴたりとやんで、みうーと名残惜しげな声を出しながら、彼女はちらりとミルクの方を見た。
「ミルクに入れる?」
「……み」
「うん、いい選択だよ、リディア。蜂蜜を入れると、甘いミルクがもっと甘くおいしくなるからね」
「みぅ」
蜂蜜を溶かし込んだミルクに期待を抱きながらも、ちょっとしょんぼりしている様子のリディアに、エドガーは蓋をきっちり閉めた蜂蜜の瓶を彼女によく見えるようにして掲げた。
「リディア、この蜂蜜は全部、君のものだよ」
「………み?」
「一日に少しずつしか食べさせてあげられないけど、でも、これは君だけの蜂蜜」
はい、とリディアの手に抱えさせて、落ちないように支える。リディアはまじまじと蜂蜜の瓶を見ながら、少しずつエドガーの言ったことの意味を飲み込んだのか、じょじょに頬を紅潮させていった。
「……みうう?」
「うん、これは君だけのもの。誰もとらないから、安心して」
「みう……みうう、みう!」
支えたエドガーの手ごとリディアは瓶をぎゅうっと抱きしめた。嬉しがるリディアの頭を優しく撫でて、エドガーは頬を緩ませる。
邸に来てから、こんなにはしゃぐリディアを見たのは初めてかもしれない。そんなに蜂蜜が嬉しいのか。
それもあるだろうけれど、とエドガーは思う。
彼女は蜂蜜の入った瓶と一緒に、誰にも取られることのない自分だけのもの、という安心を抱きしめているのではないだろうか。
これまでの彼女の生活の中で、リディアに与えられたものはごく僅かで、それに比べてとてもたくさんのものを脅かされてきたのだろうから。
いつでもこんなふうに屈託なく笑っていてくれればいいと思う。
「さあリディア、ミルクが冷たくなると、蜂蜜が固まって底にたまってしまうよ。おいしく溶けてる内に、召し上がれ」
「みう!」
満面の笑みで、リディアは彼女が抱えるには重たい瓶をそっと床の上に置く。
上機嫌にミルクを飲むリディアを眺めながら、エドガーは気分を和ませて微笑んだ。
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