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貴族の生活ってだいぶサイクルが乱れてるんだろうなーと思いつつ。
寝起きの無防備な姿っていいですよね!(*´ワ`*)





「あら?」
いつも使っている、アシェンバート家の紋章が掘られた印がない。
午前中いっぱいを使って手紙を書き終えて、さあ封をしようと気合いを入れ直した途端に出鼻をくじかれ、リディアは困ったわと思いながら引き出しの中をごそごそと漁る。
「どうかなさいました?」
「ええ……ケリー、印を知らない? いつもこの引き出しに入れてあるのに」
「それでしたら、だいぶ模様がつぶれてきたからといって、トムキンスさんが修理に出されましたよ」
そうだったの、と頷いて、あちこち覗き込むのをやめて姿勢を正す。
「エドガーに借りてこようかしら……」
時計を見ると、正午を過ぎたところだ。
リディアも今日はゆっくり目に起きてブランチをいただいたけれど、エドガーは多分まだ眠っている。
昨夜は一緒に夜会に出席したのだけれど、紳士方がそこでおもむろに商談を始めたため、エドガーは抜けるに抜けられなくなってしまったのだ。
先に帰って休んでて、と言われたリディアが邸に着いたのは深夜過ぎ。エドガーが帰ってきたのは、明け方近くだという。
「行って参りましょうか?」
「ううん、あたしが行くわ。書斎の机は鍵がかかってるもの」
そして鍵は寝室にある棚の中にある。人の気配に聡いエドガーだから、もしかしたら起こしてしまうかもしれない。
もし不本意な目覚めでも、起こした相手がリディアなら彼は怒らないだろう。
「他に嘆願書がないか、もう一度確認しておいてくれる?」
「かしこまりました」
ぺこりと頭を垂れたケリーに笑いかけて、リディアは仕事部屋をあとにした。



そっと寝室の扉を開けて、中を伺う。
部屋は静かで、人の気配もないように思えたけれど、耳を澄ますと微かに呼吸音が聞こえてくる。
まだ眠ってるみたい。
軋むことのない扉だから、最後に閉めるときだけ神経を使い、リディアは柔らかな絨毯をゆっくりとした足取りで踏む。
棚に向かう前にちらりと寝台を見ると、帳が開け放たれたままのベッドの上にエドガーが寝転がっているのが見える。
寝間着に着替えてはいるけれど、上掛けの上に横たわっているエドガーに、寒くないのかしらと心配になった。
いまさらかもしれないが、毛布を取ってきて上に掛けてやる。
閉じた瞼の下が黒ずんでいて、ああ疲れてるんだわ、と眉を曇らせた。
そんなに大事な商談なら、もっと場を改めて進めればいいのに。それとも、商談というのは二の次で、男性にとってはああいった交流が大事なのだろうか。
そっと頬に指を当てると、心なしかひんやりとしている。やっぱり冷えちゃったかしらと思いながら指を首に滑らせて、そこが温かいことに安堵した。
とく、とく、脈動を感じる。
なんとはなしに触れながら、いつ頃起こしにこればいいかしら、と考える。
「………」
規則的だった呼吸が乱れ、ん、と低く呟くような声が聞こえた。
慌てて手を離し、エドガーを見守る。彼はぎゅっと目を瞑って眉間に皺を寄せてから、ゆっくりと灰紫の瞳を現した。
「リディア」
「起こしちゃった……? まだ、寝てて大丈夫よ」
うん、と呟くエドガーは寝ぼけ眼で何度も瞬きを繰り返す。そのまま目蓋が落ちてしまったから、また眠るんだろうと思ったのに、いつの間にかしっかりと腕を掴まれていた。
「エドガー?」
「……おい、で」
寝ぼけていても、エドガーの力は強い。
リディアは手から鍵を、足から部屋履きを床に落として、大人しくエドガーの腕の中に収まった。
上掛けを身体の下に敷いて、律儀に毛布をリディアにまで掛けてくれるエドガーに、ふと笑みがこぼれる。
息を吸い込むと身に馴染んだエドガーの匂いを強く感じる。ここのところ一緒に眠っていないことを思い出すと、リディアの腕は自然とエドガーの身体に添えられる。
目を閉じたまま、それでも起きようとしているらしいエドガーは、リディアを抱きしめた腕をごそごそと緩慢に動かしている。
いつものように身体の線を辿っているのだろうけれど、夜着とは違い昼のドレスは何枚も重ねてきているから、リディアにはいまいち手の動きがわからず、羞恥も薄い。
温もりの心地よさに浸りながら静かにしていると、エドガーが不満げに呻いた。
「……コルセット、外していい?」
「なに言ってるのよ」
「やわらかいのがいい……」
指が髪に差し込まれて、ぎゅむ、と抱きしめられる。
頭にすり寄られて、リディアはくすくすと笑う。
「エドガー、ちくちくするわ」
「ん……そう?」
「ええ。もうお昼だもの」
「昼……」
腕を緩めて身じろぎをしたエドガーは、本当だ、と呟いた。視線の先を追うと、置き時計の短針が12と1の間を指している。
「お腹がすくと思った」
「起きて、なにか食べる?」
「うん……リディアは?」
「ブランチをいただいたの。だからまだお腹空いてなくて……」
身を起こすエドガーにあわせて、リディアも半身を起こす。乱れた髪を手櫛で整えると、エドガーに引き寄せられて頬にキスを受けた。
「おはよう、リディア」
「おはよう、エドガー」
何かをねだるように見つめてくるエドガーの頬を撫でて、ちょっとちくちくした感触を感じながらキスを返した。
「起きるならレイヴンを呼ぶわ。身支度ができた頃にランチにしてもらいましょうか」
「ああ、ごめん……痛かった?」
「痛くないけど、なんだかエドガー、違う人みたい」
いつもきちんと身なりを整えている人だから、少し無精髭があるだけでも印象が変わる。
妻であってもあまり見ない姿が珍しくて、リディアはにこにこと笑う。
ベッドからおりて部屋履きを履き、鍵を拾った。
「あとね、隈ができてるの。今日は用事もないし、ゆっくり休んでね」
「ありがとう。昨日はちょっと、酒が入りすぎたね」
お仕事の話じゃなかったの?
振り返って文句を言おうとして、エドガーが寝間着を躊躇なく脱ぎ捨てているところに鉢会い、慌てて目を逸らす。
「見ててくれていいのに」
「……ばか!」
くすくすと笑うエドガーを置いて、リディアは赤い顔を背けたまま、さっさと寝室を抜け出した。
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コメント
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無題
リディアではなくて、エドガーが寝ぼけているというのはとても珍しくて、思わず、ニマニマしてしまいました。
しかし、最初の頃が信じられないくらい、リディアはエドガーに触れることに抵抗がなくなりましたよね。
M子 2009/10/19(Mon)22:14:49 編集
Re:無題
エドガーの寝ぼけはリディアよりもレアだと思うので、リディアくらいしかまともに見たことない、といいなあ(´ワ`*)
リディア、両思いになってから、触れるのに慣れるの早かったですよね…! キスも大して拒まないし、すっかりエドガーに影響されてる気がします(笑
コメントをありがとうございましたv
【2009/10/22 10:01】
かわいすぎる…
作品ありがとうございます。
エドガーかわいすぎて、どうしようって感じです。
つれて帰りたい。
リディアはわりと冷静ですけど、正しいですね。
うっとりしました〜。
また新作まっております。
通りすがり 2009/10/26(Mon)23:26:36 編集
かわゆ^^
エドガーを連れて帰りたいというコメント、初めていただきました……!! 一日に何度かリディアを与えないと暴れ出しますよ!
甘える男の人と、甘やかす女の人、逆もしかりですがとても好きですvお互いに思いきり甘えたり甘えられたりできる関係ってよいですよねー(*´ワ`*)
楽しんで頂けて何よりです! コメントをありがとうございましたv
【2009/10/28 23:32】
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